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中国、軍幹部が台湾・尖閣・南シナ海で戦争を示唆…ロシアをめぐる米国の致命的な失敗

文=宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト
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米中外交トップ会談での楊潔チ共産党政治局員(右)と王毅外相(左)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 アラスカ州アンカレッジは北京とワシントンの中間。なぜアメリカは、この地を米中対話の会議場に選んだのか?

 アメリカは中国の全人代(全国人民代表大会)終了翌日に日米豪印の4カ国首脳会議をオンラインで開き、次いで日米2プラス2(外務・防衛担当閣僚会合)を開催するため、2閣僚を日本に派遣した。その上で3月18~19日の米中外交トップ会談を終えるや、4月には菅義偉首相をワシントンに招くという周到な段取りを組んだ。

 しかも、日米2プラス2の共同声明では中国を名指しし、尖閣諸島、台湾、香港、そしてウイグル自治区の人権弾圧に関わる文言を明示した。中国を刺激してあまりあるが、北京は直ちに「日米がグルになって中国の内政に干渉した証だ」と強硬に非難した。

 アラスカの米中対話を中国が「戦略レベルの対話」と意義づけたが、アントニー・ブリンケン国務長官は「戦略対話ではない」と否定した。

 米中対話は2日間にわたって合計9時間行われたが、共同声明は発表されずに終わった。ブリンケン国務長官は「罰を受けずに好き勝手に振る舞えると中国が誤認しないように立場を明確にする」と事前の記者会見で表明していた。米世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」は3月4日、アメリカ人の「対中国感情」の調査結果を発表した。全人代前日というタイミングを選んだ。

 結果、「中国は敵」と回答したアメリカ人が34%、「競争相手」が55%。そして「パートナー」は9%だった。共和党支持者に限ってみると「中国は敵」が64%だった。「習近平国家主席はまったく信用できない」との回答が43%もあり、「あまり信頼できない」との回答を合計すると、8割以上が中国に否定的だった。

 ジョー・バイデン政権が進める「人権問題で前進がなくても経済関係を優先すべきだ」という回答は4分の1で、残りの70%が「経済関係が悪化しても、人権問題を優先すべきだ」とウイグル、香港、チベット問題を認識した回答となった。こうした世論の激変ぶりを前にしては、さすがに親中派バイデンも、中国とのズブズブ関係を回復するのはチト難しいだろう。

罵り合戦を演じた中国の思惑

 中国側は、楊潔チ共産党政治局員と王毅外相がアラスカに飛んだ。中国の外務官僚のトップには最終決定権はなく、軍の代表が来ないとあっては、会談の意義はほとんどない。

 中国共産党100周年を間近に控えて、中国外交トップは京劇の役者を演じなければならない。米中高級レベル対話は冒頭から大荒れとなり、中国が「客をもてなすには失礼、外交礼儀にかなっていない」と先制攻撃の口火を切った。

 ブリンケン国務長官は「新疆、香港、台湾問題に加え、アメリカへのサイバー攻撃、同盟国への経済的な強要行為を含む中国の行動に対するアメリカの深い懸念」を表明するや、楊は1人2分の発言という規則を最初から大幅に無視して15分の演説。

「内政干渉するな。アメリカでもマイノリティー(少数派)の扱いがあるではないか。アメリカは軍事力と金融における覇権を用いて影響力を広げ、他国を抑圧している」とし、「国家安全保障概念を悪用し、貿易取引を妨害し、他の国々が中国を攻撃するよう仕向けている」と喚いた。

 冒頭から喧嘩腰の乱雑な言葉が中国側から発せられ、対話というより罵り合戦の様相を呈した。これは予測されたこととはいえ、中国側の楊と王外相にとっては京劇の見せ場なのである。楊はかつて国連演説で日本を激しく罵って習近平の歓心を買い、政治局員に出世した。そのやり方をじっと見てきた王外相(元駐日大使)も俄然、張り切って演ずる。夏の共産党創立100周年大会と秋の第6回中央委員会総会で、出世階段を上ろうとしているからである。

 米中の外交トップが言葉の激突を繰り返したことは反作用を生む。中国はロシアのラブロフ外相を北京に招いて懇談する。中露同盟強化を表向きの看板とするのだが、ロシアにとっても絶好の演出効果をあげる政治舞台だ。

 一方、バイデン大統領の耄碌が進み、カマラ・ハリス副大統領に「大統領」と呼びかけ、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を「殺人者」と罵倒した。「自分の鏡を見てから言え」と反撃したプーチン大統領は、生中継で米露首脳会談を行おうではないかと提案したところ、ホワイトハウスは、「大統領は忙しい」と理屈を述べて、この生中継会談を逃げた(本当は閑なのにね)。

米国の外交的失敗

 アメリカの外交的失敗は目に見えている。戦略的思考に立てば、中国を包囲するのだから、ロシアを味方にするのが軍略である。多少の譲歩をしてでも、中国の背後につくロシアを取り込む必要がある。しかし、アメリカの歴史を鑑みれば、いつも敵と味方を取り違えてきた。アメリカは新たにロシア高官の何人かを制裁し、在米資産を凍結した。無論、中国に対しても、香港弾圧に関与した共産党幹部を米中会談の直前に追加制裁している。

 ところで、大統領専用機はアンカレッジから直ちにワシントンへ引き返し、ジョージアの銃撃事件慰問のためにバイデン大統領を運んだ。搭乗の際に、バイデン大統領は階段で2回も転んで失態を演じたことを各紙が写真入りで報じた。

 もう1機の大統領専用機はどこへ? ロイド・オースティン国防長官はソウルでブリンケン国務長官らと別れ、ニューデリーに飛んでいた。オースティン国防長官はインドのモディ首相らと会見し、同盟関係の一層の進展と日米豪印の「クアッド」の強化などを話し合った。インドは歓迎ムードにあふれたが、インドと軍事的絆の強いロシアはこれを警戒した。その後、オースティン国防長官は予定になかったアフガニスタンを電撃訪問し、ガニ大統領と面談した。

 ところで、3月の全人代で、事実上の中国人民解放軍の制服組トップである許其亮(中央軍事委員会副主席、空軍上将)は「トゥキディデスの罠」に言及した。つまり、米中戦争も視野に入れているのである。

 昨秋の5中全会でも許は「能動的な戦争立案」と発言し、台湾、ならびに尖閣、南シナ海をめぐる緊張に直面した中国人民解放軍が「戦って勝てる軍隊」の実現を目指すと発言している。

 この深刻な状況下、アメリカのトップは「ひきこもり大統領」=バイデンである。そういえば、選挙中も地下室で居眠りしていたっけ。世界情勢が緊急を要するときにさえ、バイデン大統領は人前に出たくないのだ。

 外国首脳との電話会談は、ハリス副大統領が代行している。バイデン大統領はあいさつ程度の電話会談は欧州首脳や日本などと行ったが、実質的な詰めを行う電話会談はハリス副大統領で、英国、カナダ、独、仏のほかイスラエルなど6カ国首脳とこなした。

 かつて、フランクリン・ルーズベルト(FDR)は死に至る病にあっても、当時はテレビがないので新聞発表の写真を操作して健全さをアピールした。事実上、政治を牛耳っていたのはFDRを囲む左翼の側近たちだった。バイデン大統領のひきこもりと側近たちが主導する現状は、まさにFDR末期に酷似する。アメリカは大丈夫かと懸念の声が湧き上がるのも、無理はない。

宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト

宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト

 「日本学生新聞」編集長、雑誌「浪曼」企画室長を経て、貿易会社を経営。1983年、『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。30年以上に亘る緻密な取材で、日本を代表する中国ウォッチャーであり、海外からも注目されている。『中国分裂 七つの理由』(阪急コミュニケーションズ)、『人民元がドルを駆逐する』(ベストセラーズ)、『中国財閥の正体』(扶桑社)、『本当は中国で何が起きているのか』(徳間書店)など著書多数。数冊は中国語にも訳された。また作家として『拉致』『謀略投機』(共に徳間書店)などの国際ミステリーも執筆。。

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