ネパール人犯罪者がさらけ出した日本社会の暗部
日本人の赤前智江さんと結婚して、北海道の虻田郡倶知安町で暮らすようになったネパール人のハバドー・カミ・シュアムが、妻と生後6カ月の娘を殺害するという事件が、平成20(2008)年5月6日に起きた。
八木澤氏は智江さんの家族から話を聞くだけでなく、ネパールに渡った。それによって、シュアムがネパールに今も残る「カースト制度」の最下層の“不可触民”であることを知る。
さらに、シュアムにはネパールにも妻がいることがわかり、八木澤氏はその妻からも話を聞いている。また、彼の生家を訪ねて父親からシュアムの生い立ちを聞き出すだけでなく、帰国後、拘置所にいるシュアムを訪ねて実際に対面した上で質問を投げかける。その返答とは……。
「第4章 北海道に渡ったネパール人」の顚末だ。シュアムの事件ひとつで一冊の本が編めてしまえるほど、凝縮した内容だ。
そもそも、なぜ“巡礼”というかたちにしたのか。八木澤氏は語る。
「シュアムの起こした事件は、ひとつの時代性を映し出しているわけです。智江さんは旅行先のネパールでシュアムに出会った。女性がひとりで海外旅行に行くことが珍しくない時代になり、国際結婚も多くなりました。
ただ、よく『グローバル化』などと言われますが、国内でも地域性がいまだに色濃く残るのに、日本人とネパール人ではお互いに理解できない面も多々あったでしょう。簡単にはわかり合えない部分があるんです。国際化とは、お互いの相違を認め合うことでもあると思います。
罪は罪であり、犯罪者は犯罪者です。それは間違いないし、決して許されるものではありません。だけど、はたして彼ひとりに罪を押し付けていいのか……シュアムの事件に限らず、本書を執筆する過程ではそうした思いも湧いてきました。
私は、ブラジルやフィリピンから来日し、日本国籍を取って日本人になった人々も取材していますが、彼らが加害者にも被害者にもなるかたちで、犯罪に巻き込まれるケースは少なくありません。外から来た人々への差別というのは、どうしてもありますから。ゆえに、差別と犯罪をまったく切り離して考えるわけにはいかないんです」(同)