22日にインターネット上で公開された、テレビ朝日のニュース番組『報道ステーション』のCM動画が物議をかもしている。内容としては、会社から帰宅した女性が、夫に向かって以下のように語りかけるというものだ。
「会社の先輩 産休あけて赤ちゃん連れてきてたんだけど もうすっごいかわいくて」
「どっかの政治家が『ジェンダー平等』とかって今、スローガン的に掲げてる時点で、何それ、時代遅れって感じ」
「化粧水買っちゃったの。もうすっごいいいやつ」
「それにしても消費税高くなったよね 国の借金って減ってないよね?」
「あ、9時54分、ちょっとニュース見ていい?」
そして最後に画面上に、夫の心の声として「こいつ報ステみてるな」と表示されるのだが、動画公開後からTwitter上では「女性をバカにしている」「ジェンダーに関して不適切な表現」などの批判が相次ぐ事態に発展している。
<久米宏さんのニュースステーション、筑紫哲也さんのニュース23は、当時20代で報道に身を置く私にとって学ぶことしかない報道番組でした。それが、この程度のジェンダー認識でCMを作られたのか、との想いです>(蓮舫氏/参議院議員/立憲民主党代表代行)
<報道ステーションのCMがひどい。『会社の先輩、産休あけて赤ちゃん連れてきてたんだけれど、すっごくかわいくって。どっかの政治家が「ジェンダー平等」ってスローガン的に掲げている時点で、何それ、時代遅れって感じ」育児しながら働き続けることができる社会を作るのがジェンダー平等じゃないですか>(福島みずほ/参議院議員/社民党党首)
<報道ステーションを熱心に見ていると、自分の会社のスタンダードが社会のスタンダードだと勘違いするくらい、視聴者にとって問題のある番組だ、という自虐CMと考えると理解できる>(石垣のりこ氏/参議院議員/立憲民主党)
うかつだったテレ朝
その一方、今回のCM動画に批判が集まっていることについて、ネット上では次のような疑問の声もあがっている。
<私は報道ステーションのCMを見てもなんら不快を感じない。男女平等など当たり前のことだという文脈でしか見ない。是々非々ではなく報道ステーションが嫌いというポジションから感情に任せた叩きになったのだろう>(原文ママ、以下同)
<何がいけないのか、何が悪いのかまったく分かりません。このCMに潜む問題点が何なのか教えてほしいです。こういう私見もあっていいのではと思うのですが…報ステだから尚更炎上してるのでしょうか?>
<報ステのCM どこが悪いん? 悪い所なくないか?? ジェンダー平等とかもう当たり前になってきてるから掲げること自体が遅いんじゃんって言いたかったのでは??? 皮肉にも見えたけど>
<私別に報ステのCMなんとも思わなかったな ジェンダー平等にしましょう!とか掲げるのは確かに時代遅れな感じするし>
<報ステのCMってそんなにヤバい内容だった?過剰反応しすぎでは? 私自身ジェンダー差別とかに怒り狂ってる人間だけど、このCMで炎上するのは訳分からん>
テレ朝は24日、CM動画を削除し、公式Twitterで「意図をきちんとお伝えすることができませんでした」などと謝罪しているが、当該動画が大きな批判を招いた理由について、元TBS経営企画局長でメディア・コンサルタントの氏家夏彦氏は、次のように語る。
「個人視聴率が導入され、年配の視聴者が多いことが露呈してしまったテレビ朝日としては、広告主が望む20~34歳の女性、いわゆるF1層の視聴者を獲得したいという思惑から、このような番組宣伝をすることになったこと、そしてそれが裏目に出てしまったことは容易に推察できます。意識が高いとは自分では思っていない女性でも、『報ステ』を見ていると自然に社会問題を意識するようになるとアピールしようとしたのでしょう。
しかし消費税や国債はいいとしても、なぜセンシティブなテーマであるジェンダーを持ち出したのか。ジェンダーは人によって受け止め方に極めて大きな落差があるテーマです。ジェンダーと聞いても『なにそれ、考え過ぎなんじゃない』とまったく鈍感な人もいれば、非常に敏感に反応し怒る人もいる。そして一度怒りを覚えた人は、その対象のあらゆるものを不快に感じ、大したことがないことでもバカにされたと感じてしまう。
そして敏感に反応する人はネットでもよく発言することが多い。従ってジェンダーを取り上げた時点で、炎上してしまうのは当然のことと覚悟しなければならない。それをテレビ朝日が読めていなかったのなら、うかつとしか言いようがないでしょう」
女性間の格差にあまりにも無自覚・無頓着
また、精神科医の片田珠美氏は次のように分析する。
「このCM動画が、ここまで世間の視聴者から不快感・拒否反応を示され、批判を受けているのは一体なぜでしょうか。
まず、会社の先輩が産休明けに連れてきた赤ちゃんがすごくかわいかったということから、この先輩は正社員で産休をとれる立場のうえ、会社に赤ちゃんを連れてきても嫌みを言われない恵まれた立場だと察せられます。
しかし、実際には非正規社員で産休をとれないとか、正社員でも産休をとろうとしたら嫌みを言われたとか、暗に自主退職を勧められたとかいう女性がたくさんいるわけです。しかも、コロナ禍はとくに非正規の女性を直撃しており、経済的事情から、出産どころか結婚も諦めざるを得ない女性がいるのですから、そういう女性の怒りと反感を買うのは当然でしょう。
おまけに、赤ちゃんが『もうすっごいかわいくて』と笑顔で言われると、『女の幸福は結婚して子供を産むこと』『女は結婚して子供を産んで一人前』というメッセージを送られているような印象を受けます。そうしたくてもできない女性や別のことに生き甲斐を感じている女性は不快感や拒否感を覚えるのではないでしょうか。
そのうえ、最後に女性の顔に『こいつ報ステみてるな』と大きなテロップが載せられます。これは、赤ちゃんと化粧水にしか興味がない女性でも理解できるように、ニュースをわかりやすく解説する番組ということを強調するためなのかもしれません。しかし、これを観た女性視聴者がバカにされているように感じる可能性は高いと思います。
なぜかといえば、昔から『女子供にもわかる』『女子供でもできる』という言葉があるように、日本では“女子供”は“大の男”と比べて一段劣った存在として見下されてきましたが、それを彷彿させるからです。
このように、この動画は、隠然とした男尊女卑、さらには女性間の格差にあまりにも無自覚・無頓着で、世間一般の女性の感覚とズレているように見えます。このズレに気づいていないことこそ最大の問題でしょう。
ズレに気づいていないことは、『どっかの政治家がジェンダー平等とかって今、スローガン的に掲げてる時点で、何それ、時代遅れって感じ』という言葉からも明らかです。たしかに、男女平等が完全に実現した社会であれば『ジェンダー平等』と声高に叫ぶ必要はないでしょう。しかし、日本で完全な男女平等が実現しているとは到底思えません。そういう状況でこんな言葉を口にするのは、やはり相当ズレているからではないでしょうか」
今夜放送の『報ステ』で、どのような釈明がなされるのかが注目される。
(文=編集部)