欧米諸国と中国の対立が激しくなっている。原因は、中国当局が少数民族ウイグル族の人権を侵害しているとされる件だ。
中国共産党は、中国北西部にある新疆ウイグル自治区内に収容所をつくり、ウイグル人に強制労働をさせたり、虐待を加えるなどして中国政府に忠誠を誓うように洗脳したり、性的虐待を行っているとの指摘が出ている。中国政府は疑惑を否定しているが、欧米各国は中国当局者たちに制裁を発動した。
また、ウイグル自治区で強制労働により綿花が栽培されているともいわれており、ここ数年、新疆綿を購入したり、新疆綿を原料として洋服等の製品を製造する企業に対して批判の声が多く出ている。
2020年3月には、豪シンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」が、世界の有名企業少なくとも83 社のサプライチェーンに組み込まれている中国の工場で、ウイグル人が強制労働させられていると発表。そのなかには、ユニクロ、無印良品を展開する良品計画、しまむらなど、日本企業も含まれている。
この指摘後、各社はウイグル人の強制労働との関係を否定、もしくは強制労働と関係が疑われる企業との取引を中止、といった声明を次々に発表。
そんななか、スポーツ用品大手・アシックスの中国法人は3月25日、中国版Twitterと呼ばれるウェイボーで、「引き続き新疆ウイグル自治区産の綿花を購入する」と発表した。
世界的な潮流に逆行するかのように、「中国に対する一切の中傷やデマに反対する」として、中国当局によるウイグル人強制労働を否定した。この発表は、日本の本社の了解を得て出されたという。
中国でのアパレル事情に詳しい専門家は、アシックスがこのような発表した理由を以下のように分析する。
「中国国内では、新疆ウイグル自治区産の綿花を使用しないと公言した企業に対する批判や不買運動が起きています。アシックスは中国でのビジネスを重視して、当局を刺激しないように今回の発表をしたと考えられますが、これは諸刃の剣となる可能性があります。EUや米国はウイグル人虐待を原因として制裁を発動しているため、中国がこれを認めてウイグル人を解放しない限り、欧米と中国の対立は続くとみられます。
しかし、中国政府がウイグル人虐待を認める可能性は限りなく0に近く、この問題は長引くと考えられます。そうなると、究極的には欧米でのビジネスを取るか、中国でのビジネスを取るか、という選択をしなければなりません。中国政府の見解を支持する声明を出したアシックスは、欧米での市場を失うリスクをはらんでいます」
アシックスの声明を受けて、日本国内のSNSでも批判の声は続出している。「二度とアシックス製品は買わない」という声も少なくない。Twitter上でも「#アシックス不買」などのハッシュタグを付けて同社を非難するツイートが出ている。日本政府は、欧米に追随して中国に制裁を課すか否かの態度を明確にしていないが、日本の消費者はアシックスの見解に「NO」を突きつけているようにみえる。
アシックスは、「サプライチェーン管理プログラム」により「サプライヤーにはアシックス基準、地域基準、国際基準の順守」を義務付けていると発表している。新彊自治区の綿花が国際基準に合致しているかどうか、現時点では明確に判断しにくいところだが、アシックスはあえて中国を支持する方針を示した。
今のところアシックスは声明を撤回する考えはないとしているが、この決断がどのような影響を与えるかは不透明だ。
(文=編集部)