例えば風力発電の場合、安定して風が吹く発電適地は北海道や東北など一部に限られている。太陽光発電は、晴天日が少ないわが国では発電量が不安定で、発電効率も著しく低い。空が曇れば発電量は半分になり、雨が降れば10%以下になる。もちろん夜はまったく発電できないため、電源としては補助的役割しか果たせない。
さらに、ソフトバンクの孫正義社長が旗を振っている休耕地活用も、農地のままではメガソーラー(大規模太陽光発電所)を建設できない。
再生エネの導入促進には、FITだけではなく、風力・太陽光など発電量が不安定な電力の需給を柔軟に調整できるスマートグリッドの導入や、再生エネ発電にかかわる規制緩和を含めた一体的制度改革が必要だが、いずれの改革も手付かずのままだ。関係者は「買取価格と電気料金値上げが決まっただけ。再生エネ普及のインフラは何も整っていない」と指摘している。
太陽光発電の導入が進んでいる欧州では、債務危機の影響で補助金削減や買取価格の引き下げが行われ、普及に急ブレーキがかかっている。
例えば、00年からFITを施行したドイツでは、今年、一般家庭からの太陽光発電買取価格を約20%引き下げた。イタリアやギリシャでも、太陽光発電事業者への補助金削減の動きが進んでいる。その影響で、太陽電池メーカーも軒並み赤字に陥っている。実際に英ビーピー・ピーエルシー(国際石油メジャー)は、昨年12月に太陽光発電部門を閉鎖。世界最大手の太陽電池メーカーだったドイツのQセルズは、5月、経営破綻した。販売量が減っていたところへ、中国メーカー勢の供給過剰による価格下落がとどめを刺したかたちだ。こうした状況から、欧州の太陽電池関連産業は衰退に向かっていると見られている。
ドイツの場合、家庭用電気料金の14%、産業用電気料金の26%がFIT分になっている。このため「FIT制度の国民負担は限界に達している」との声も出ている。どこの先進国でも、再生エネは経済成長の牽引役になっていないのが現状だ。
ところが、わが国では算定委の買取価格が発表されるやいなや、産業界は「商機到来」と手放しの喜びようだ。自治体も地域経済の目玉にと、メガソーラー誘致に走り回っている。
メガソーラーが招く国内産業衰退
メガソーラー建設計画も急速に具体化している。主な計画だけでも、合計電力量は50万kWhに迫る。例えば、ソフトバンク子会社・SBエナジーは全国10カ所以上で平均2万kWh、京セラは鹿児島で7万kWh、三井物産は全国10カ所に平均2000kWhのメガソーラー建設計画を進めている。
メガソーラー発電所の建設費は、1000kWhあたり約4億円といわれている。ある外資系証券がソフトバンクのメガソーラー建設費800億円(10カ所×2万kWh)をモデルに、事業期間20年、FIT期間15年で事業投資利回り(ある事業についての投資額に対して得られる利益)を試算したところ、買取価格が35円なら投資利回り3%、40円なら9%の利回りとなった。今回決定した42円では、利回りが10%を軽く超える。FITは極めて安定的で高利な金融商品でもあるのだ。孫社長が喜ぶのは当然だ。実際、証券業界では、メガソーラー投資ファンド組成の動きが急といわれている。
FIT施行が近づくにつれ、他の再生エネに比べてそれほど優れた電源とは言えない、メガソーラーの人気が高まっているのは、金融商品としての美味しさに加え、参入の容易さにある。風力発電や地熱発電と違い、場所的制約が少ないし、建設期間も半年程度なため、5億円程度の資金調達さえできれば、基本的に誰でも参入可能だ。
しかし、メガソーラーの林立は景気浮揚どころか、景気の足を引っ張る恐れがある。海外メーカー、特に中国メーカー勢が一気に国内太陽電池市場を席巻し、太陽電池関連産業を衰退させる可能性が高いからだ。
これまでの国内太陽電池市場は、住宅向けが大半。1基当たりの販売額が低く、市場規模も小さいので、海外メーカーにはあまり魅力がなかった。また、シャープをはじめとする国内メーカーは、住宅メーカーや工務店と強固な提携関係を築くことで販路を囲い込み、海外メーカーへの障壁にしてきた。
これに対してメガソーラーの場合は1基当たりの販売額が大きいので、海外メーカーも発電事業者への直接販売を狙える。実際にSBエナジーは、国内外の太陽電池メーカーを競わせて低価格調達する方針を打ち出している。価格競争力に勝る中国メーカー勢が、欧州市場と同様、日本市場を席巻するのは必然といえる。