執行部の改編など、大型人事の断行に踏み切ったばかりの任侠山口組に激震が走った。
3月26日、任侠山口組で舎弟を務める五代目春駒組の辻本誠之総裁が、和歌山県西警察署管内の海で自殺したことが明らかになったのだ。辻本総裁は、「ケンカ、負け知らずの倉本組」と謳われた武闘派組織の初代倉本組で若頭代行を務めたことのあるほどの人物で、若くして倉本組若頭補佐を務めていた任侠山口組・織田絆誠代表の先輩にあたる。
その関係もあって、今年2月28日に辻本総裁が任侠山口組へ加入したときには、織田代表自ら辻本総裁のことを、敬意を込めて「先輩」と呼んだと言われていたほどだ。それほどまでの重鎮が、任侠山口組加入後1カ月を待たずして自ら命を絶つことになった背景には、いったい何があったのだろうか。
地元捜査関係者は、このように話している。
「捜査当局でも遺書が残っていたことから、自殺との見立てで捜査を進めているが、念のため、本当に事件性がなかったかどうかも視野に入れている」
残された遺書の内容は明らかになっておらず、業界関係者の間でも動機がわからない突然の死だっただけに、さまざまな憶測を呼んでいるが、現時点ではあくまで真相は闇の中である。
任侠vs神戸、傘下組織同士衝突か?
さらに翌27日、任侠山口組山本会の山本一守会長が、24日に大阪市西区九条にあるパチンコ店で襲撃された事件にも進展があった。山本会長は、パチンコをしているところを後ろから殴打され、頭などを負傷。犯人は現場から逃走していた。
「27日の午前11時半頃に容疑者と見られる元組員が大阪西警察署に出頭し、パチンコ店に設けられていた防犯カメラの映像から、この元組員の犯行で間違いないとして逮捕している」(地元捜査関係者)
山本会長率いる山本会には、任侠山口組移籍後すぐとなる2月8日にも4トンのダンプカーが突っ込む事件が起きたばかりだ。
「共犯関係の捜査を進めている都合で、元組員の容疑に関する認否を含め、所属していた組織名称などは明らかにされていないが、逮捕された人物は神戸山口組傘下である奥浦組の元組員らしい。なんでも、山本会が任侠山口組へと移籍した後で、奥浦組から処分されている。業界関係者ならピンとくるはずだが、組織に累が及ばないために、組を抜け出てから今回の犯行に及んだのではないか。そして自ら出頭。業界関係者では、まさに“サムライ”だとの声が上がっている」(独立団体幹部)
山本会長は今年1月に、奥浦組若頭補佐の立場から任侠山口組に直参として移籍した人物。奥浦組と山本会長の間には少なからず因縁があるのは間違いないだろう。
あくまで、ことの真相は捜査の進展を待たない限りわからないが、昔からヤクザの美徳として、事件を自らの手でやったものだと誇示するために犯行後、刑務所行きを覚悟で自首する時代があった。
だが、暴力団排除条例の施行にも表れている通り、ヤクザの存在自体を許さないという社会の風潮を踏まえ、たとえ、ヤクザ同士の抗争だとしても、ヤクザが犯した犯罪に対する量刑が一気に跳ね上がった。そのため、美徳を貫くために自ら罪を犯し、自首するという傾向は薄れてきた感がある。
しかし、どれだけ取り締まりが強化されようとも、損得を顧みることのない“サムライ”と呼ばれるヤクザは存在する。もちろん、犯罪を美徳化することに社会が抵抗を示すのは当然だ。たとえば、ヤクザ同士のぶつかり合いであっても、法治国家では許されない行為である。
今回の件も、繰り返すが、ことの真相はわからない。だが逮捕された元組員にとっては、見逃すことのできない何かがあったのだろう。それは組織や自身の面子かもしれないし、遺恨かもしれない。だが、ヤクザはそうしたもののために身を捧げる生き方を「生き様」と呼ぶというのも事実であり、そうした価値観がある限り、抗争はなくならないのかもしれない。
(文=沖田臥竜/作家)