現在、日本には約600の児童養護施設があり、親自身の病気や経済的理由などさまざまな家庭の事情で親と暮らせない、1〜18歳までの約3万人の子どもたちが暮らしている。そして彼らのうち実に53%が親から虐待を受け、大学に進学する子どもは10%未満だという。
こうした“子どもの貧困”問題に取り組むNPO法人・Living in Peace(以下、LIP)が注目を集めている。LIPは他の多くのNPO法人と違い、普段はビジネスパーソンとして仕事を持つ人たちがボランティアで活動を行っており、専従の職員を持たないため、カード決済手数料などの必要経費を除き募集したお金の多くを寄付金に充てることができる。また、クラウドファンディングという金融の仕組みを活用して、児童養護施設支援などを行っているのも特徴だ。
自身も普段はプライベート・エクイティ・ファンドで投資業務に携わる、LIP代表の慎泰俊氏に、
「知られざる“子どもの貧困”の実態」
「金融を駆使した児童養護施設支援とは、具体的にどのような仕組みなのか?」
「ユニークなNPO法人の運営」
「なぜ本業を持ちながら、労力と時間のかかるNPO活動を無償で行うのか?」
などについて聞いた。
–NPO法人・LIPを立ち上げられたきっかけを教えてください。
慎泰俊氏(以下、慎) 私の出身校である朝鮮大学校(在日朝鮮人がその子弟のために設立した高等教育機関)には、普通に生活していれば出会うこともないようなさまざまな境遇の人たちが集まり、まさに“社会の縮図”でした。そうした体験などもあり、学生時代からずっと、「生まれによって、その人の未来が制限されないような社会をつくりたい」と思っていたのですが、何をどうすればそういう社会を実現することができるのか、わかりませんでした。大学時代には貧困削減や人権擁護に関わるNPOやNGOなどにも参加してみました。そういう活動を通して、「ビジネスの論理に基づいたものでなければ、いくら正しいことを言っても受け入れてもらえない」ということを知り、まずビジネスの論理を学ぶことにしました。
そこで、大学卒業後は外資系証券会社に就職しました。入社から1年半ほどたったときに、ビジネスや金融の知識もついてきたこともあって、社会的な活動にもっと時間を割いていこうと決意し、知人や私のブログを見て共感してくれた人たちとともに、LIPを立ち上げたわけです。
–LIPは、どのような活動をされているのですか?
慎 当初は、勉強会を開催したり、実務に携わる人たちの話を聞いたりすることから始めました。その中で、貧困の削減という社会的課題と事業の持続可能性という経済的課題の2つを同時に解決できるマイクロファイナンスという手法があることを知りました。そこで、2009年2月、ミュージックセキュリティーズ社と提携し、プロジェクトを立ち上げ、同年9月には日本初のマイクロファイナンスファンドを企画しました。
現在海外では、発展途上国のマイクロファイナンス機関向けに資金調達スキームの構築や調査、現場報告などを行っています。また、国内では主に児童養護施設向けの支援として、施設の建て替え資金の調達支援のための寄付プログラム「Chance Maker(チャンスメーカー)」(後述参照)の運営や、子どもたちの進学支援・キャリアセッション、一般向けの施設見学ツアーなどを行っています。
このような私たちの考え方や活動を評価していただき、13年4月末時点で、370名以上の方にチャンスメーカーに参加していただいており、毎月約70万円の寄付をいただいています。また、13年4月末時点における寄付金総額は1000万円を突破しました。
–児童養護施設向けに支援をされているのは、なぜですか?
慎 貧困の削減、それが私たちの目標です。その中で、将来的にも大きな影響をもたらす子どもの貧困に特に焦点を当てています。なぜなら、子どもの貧困の一因は、その育った環境の中で「自己肯定感を十分に得られないことによるのではないか」と考えているからです。私たちが児童養護施設の改善に取り組んでいるのは、そのためです。