SDGs(持続可能な開発目標)という言葉が知名度を獲得しつつある。SDGsとは、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できる世界をつくるために、国連が定めた17の目標である。
日本ではプラスチック削減が有名だが、ほかには「働きがいと経済成長の両立」や「すべての人に健康と福祉を」など、日本で着目されているトピックも多い。なかでも、日本で最近多くの媒体が取り扱いながら、SDGsに入っていることをあまり知られていない「隠れSDGs」的存在なのが、ジェンダーの平等である。
触れれば燃える? 多発するジェンダー広告の炎上
ところが、「働きがい」「プラスチック削減」などのテーマと比べて、ジェンダーに関する事案はよく炎上する。たとえば、直近ではナイキのCMが炎上した。
CMは、女性が妊娠し、子どもの性別が判明したところで始まる。「女の子!」と喜んだのもつかの間、すぐに女性の顔は曇る。女の子だったら会議で「男性社会」の中に入れてもらえないかもしれない。あれだって、これだって叶えられないかもしれない……。しかし、母親となった女性は語りだす。
「いい加減にしてよ! 女の子だってなんでもできるんだから!」
女の子だって、野球選手になれる。相撲だって、ラグビーだって。叶えられない夢なんかない。ナイキらしく、スポーツの夢と女性をかけ合わせて締めくくられる。
このCMが炎上した主な理由は、社会問題であるジェンダーの不平等を「女性の頑張り」に託したことだ。あるコメントは、端的にこの問題点を指摘していた。
――女性差別(入試差別、就職差別、性加害、セクハラ、パワハラ)が何一つ解決されてないのに「女の子は何にでもなれる」って何?
燃える理由は「ジェンダー」ではない
その前にも、有名なものでは「かながわ女性の活躍応援団」として、神奈川の経営者が女性活躍を推進するビジュアルを公開したところ、経営者に男性しかおらず、「何が女性活躍だ」と総ツッコミを浴びた事例がある。
また、ストッキング・タイツの老舗メーカーのアツギは、女性がタイツを描いたイラストを100枚アップロードする企画で炎上した。イラスト化された女性たちが、ファッションよりもタイツ・フェティシズムを煽る性的なイラストだと批判されたからだ。
このような炎上が連続すると、しだいに媒体でも「ジェンダーは扱いたくない」と思うだろう。実際、私が最近メディアに出演させていただく際のテーマも、当初はジェンダーの重要性を語るストレートなネタが多かったが、最近は「なぜジェンダーは炎上するのか」という、炎上を前提としたトピックが増えてきた。
このままでは「何かよくわからないが、ジェンダーは取り上げないようにしよう」という方向に舵を切るメディアも出てくるだろう。
ジェンダーを自ら売り込むのが最大のミス
もしあなたが、こういう発言を耳にしたらどう思うだろうか。
「私は貧乏な人に優しいから、貧乏な人にも頑張って未来を切り開けるって伝えたい」
「私は黒人を差別しないから、黒人でも夢は叶うっていうCMをつくろう」
直感的に、これは炎上する……というより、倫理にもとると理解できないだろうか。それが、なぜか女性をテーマにすると起きてしまう。「私たちは女性の理解者です」とアピールするCMをつくってしまうのだ。
しかも、得てして炎上する広告は、なぜそれを信じていいかという信憑性に欠けている。たとえば、“人種差別をしていないアピール”をするために、日本人管理職しかいない会社で日本人がずらりと並ぶ写真で「ダイバーシティ」と言っても信じてもらえない。しかし、代わりに「うちでは海外の方も雇用し、本社管理職の3割以上が外国籍である」という実績があれば、話は変わってくるだろう。
もう一つ例を出そう。森喜朗元首相が「わきまえている女性」発言で抗議を受けて東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長を辞任したのは記憶に新しい。森元首相は差別する意図はなかったと説明したが、それがさらに国民の怒りを招いた。これも、「男女差別はありません、日本で女性は活躍している」という建前の、信憑性を失わせる発言だったから激しいバッシングを受けたのである。
何かをアピールするなら信頼できる実績を
ジェンダーであれ何であれ、「広告」には必ず信頼できる根拠が必要だ。さもなくば「世界一美味しい」とラベルを貼った食品は、無条件で美味しいと信じてもらえることになってしまう。普通はこんな広告を見たら、消費者は「本当かな?」と思うだろう。
ジェンダーに関する発言や広告が次々と炎上するのは、シンプルにアピールしている内容に、根拠がないからである。もし自社PRでジェンダーを扱いたいのであれば、根拠を用意しなくてはならない。それこそ、冒頭で扱ったナイキのCMで「これから生まれてくる少女が、なぜこれまでの女性とは違って未来の夢を叶えられるか」という根拠が必要だったように。
だから「ジェンダーに広告で触れるな」は正確なアドバイスではない。「根拠のないアピールはしてはならない」という、シンプルな話なのである。
(文=トイアンナ/ライター)