4月5日発売の「週刊文春」(文藝春秋)で、東京電力ホールディングス(以下、東電)元副社長と福島県の復興運動家の不倫が報じられた。その記事のなかでは、単なる不倫というだけではなく、大きな額のお金が、その運動家に提供されていることも記されている。福島復興をめぐり大きなお金が関係者に動き、その理由として福島復興を「演出」したい人々や組織の思惑が存在するということがうかがえる。
この構造は、東電や電力会社を中心として、政府や省庁だけではなく、科学者や原子力関連事業者まで一体となって原子力を推し進めた「原子力ムラ」と近い。原子力安全神話をつくり、原子力推進政策を推し進めた原子力ムラのなかでも、巨額のお金が流れていた。
「福島復興ムラ」とは
東電は福島への責任を果たさなければならない一方で、柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働や、建設中の東通原発(青森県)の稼働を目指したいという思惑を持っている。経産省は原発を再稼働させ、その上で海外展開したいと考えている。復興庁は、2021年3月末に廃止が予定されているため、それまでに復興をできる限り進めたいという意識がある。福島は、できるだけ早く住民を現地に帰還させたいという意志を持ち、福島は安全である――本当は、被災地によってもだいぶ異なっている――という印象を多くの人に与えたいという考えがある。
そのなかで、被災地の復興を訴える運動家や、研究者たちが活動をしている、という構図がある。その活動には、さまざまなところからバックアップがある。こういった構造を、「福島復興ムラ」と呼びたい。
何が問題か?
福島第一原発事故が起こる前でも、東海村JCO臨界事故などが起こり、原発労働者が置かれた環境の危険性が問題視されていた。ソ連崩壊前にはチェルノブイリで世界最大級の原発事故が起こり、原発事故の危険性は想定可能だった。そうしたなかで、原発推進は国策とされ、電力会社から多くのメディアにお金が流れ、原発は安全だというイメージが広められていった。
これと似たようなことが、福島復興でも行われているのである。復興は必要だが、世界最大級の原発事故を起こした「原子力ムラ」と似たような枠組みで復興をやっていいのか。その復興は福島に安全をもたらすのか。東電や役所の意図のなかで復興が行われ、被災地住民の幸福追求権はどうなるのか。失敗が起きるリスクはないのか。
復興活動家の記事に大きな金額の原稿料を支払うよう、東電がメディアに働きかけたり、福島の「安全」を広めるよう広報活動に力を入れて広告会社やメディアにお金を流したりと、構図としては「原子力ムラ」と近く、東電や政府の意図に沿って福島に関する情報が広められる可能性が高い。
福島の人々のための復興を
自主避難者の住宅支援が打ち切られ、地域によっては帰る場所もないということが起こっている。何年も暮らさなかった家にはすぐには住めず、メンテナンスも必要である。都市に生活基盤ができてしまい、そちらで暮らすようになっている人もいる。一方で帰還困難区域から避難している人たちは、帰ることはできない。
福島県は「福島の安全」という理由を挙げて、自主避難者に帰還を呼びかけている。福島県としても、人口流出は避けたいという意図があるのだろう。東電としても、この復興がうまくいけば、原発復活につながるという意識を持っているのではないか。
福島県民の間には、原発事故後の安全に関する情報が流れている一方で、それを信じられない人たちもいる。福島県内でも、地域により状況はまちまちなのである。そのなかで「福島復興ムラ」は復興を演出し、利害関係のある組織や人が「ムラ」の発展のために力をつくす。
原子力ムラは結果として、労働者や地域住民のためにならなかった。福島復興ムラは復興関連の組織や人のためにしかならず、地域住民を置き去りにしているのではないか。それが、いまだに福島に帰らない自主避難者たちに不信感を抱かせているのではないか。
復興は福島復興ムラのためではなく、住民のために行うべきである。
(文=小林拓矢/フリーライター)