地球は太陽系の惑星のひとつですが、太陽系以外にも惑星を持つ惑星系はあるのでしょうか。それは、「この宇宙に私たち以外に生命がいるのか」という疑問につながる、1990年代の天文学において最大の謎でした。92年に人類が初めて太陽系以外の惑星を発見し、これまでに4000個近い惑星が発見されています。すでに地球そっくりな惑星も見つかっているので、地球外生命が確認されるのも時間の問題かもしれません。
しかし、4000個も発見されている惑星のなかで、望遠鏡で観測して発見された惑星はひとつもありません。それらはすべて、「惑星があるなら、このような現象が起きるはず」という理論的な考察によって発見されています。
身近な例でいえば、日食。日食は、地球と太陽の間を月が通過する際に太陽が隠される現象ですが、このときに太陽は暗くなります。それによって、私たちは月が太陽の手前を横切っていることを知ることができます。
太陽系外惑星を探す方法はいくつかありますが、もっとも成果を上げているのが日食の観測と同じ方法です。つまり、ある星を観測しているときに、地球とその星の間を惑星が横切れば星の明るさが暗くなるため、そこに惑星があることを知ることができるという観測手法で、トランジット法と呼ばれます。
しかし、星の手前を惑星が横切ることによって生じる明るさの変化は、ほんのわずかです。たとえば、太陽系をほかの星の宇宙人天文学者が観測するとしましょう。太陽系最大の惑星である木星が太陽を横切ることで、太陽の明るさの変化を観測できるものと思われますが、わずか1%暗くなるだけです。
2009年にケプラーという人工衛星が打ち上げられました。ケプラーはトランジット法に特化して太陽系外惑星を探すための宇宙望遠鏡です。ケプラーは3000個近くの惑星系を発見しており、それらは天文学者の想像をはるかに超えるものばかりでした。
たとえば、太陽系の水星よりも内側、太陽すれすれの軌道を木星よりも巨大な惑星が何個も超高速で回っているような惑星系です。しかも、それらは決して珍しい異様な惑星系ではなく、むしろそちらのほうが一般的であるように思えました。つまり、太陽系のような太陽の近くと遠くに小さな惑星、その間に大きな惑星が収まっているバランスのよい惑星系は、宇宙でもまれな存在だったのです。
しかし、これは正しい解釈なのでしょうか? 科学者は、これについて「ケプラーバイアス」と呼んでいます。つまり、私たちはケプラーで発見できる惑星しか知ることができないので、「『ケプラーが見たものが宇宙の真理だ』と勘違いしてしまいがち」ということです。
設計上、ケプラーは宇宙の一方向しか観測できません。しかも、観測できる範囲は夜空全体のわずか400分の1の限られた範囲です。その結果、これまで発見された惑星はいずれも地球からはるか遠く、光の速さで飛んで行っても数千年もかかるような惑星ばかりです。
地球はすでに宇宙人に発見されている?
惑星のことを詳しく知るには、そして知的生命体の痕跡を探すには、もっと太陽系に近い場所で地球に似た惑星を数多く見つけることが必要です。地球の近くでもっとたくさんの惑星を発見したい、その惑星には海があるのか山があるのか、地球と同じ風景があるのか確かめたい――そんな天文学者の熱い思いが、ケプラーの後継機であるトランジット系外惑星探索衛星(TESS)を誕生させました。
TESSは、2018年4月にアメリカ航空宇宙局(NASA)によって打ち上げられました。TESSの探索効率はケプラーの400倍に向上しており、短い時間でより多くの惑星を発見することを目的に設計されています。
一方で、広い範囲を2年という短い衛星寿命のなかで大急ぎで観測するように設計されているため、発見されたひとつの惑星をじっくり詳細に観測するには向いていません。
そこで、TESSが生命存在の可能性がある惑星を発見した場合には、ヨーロッパやアメリカが今後打ち上げる予定の、狭い範囲をじっくり観測する宇宙望遠鏡で詳細に観測することになっています。それによって、「地球以外の星に生命がいる」という人類初の大発見を目指します。
ところで、先ほど「宇宙人天文学者がトランジット法で観測したときに、木星が横切ることによる太陽の明るさの変化を観測できそうだ」とお伝えしましたが、この宇宙人天文学者は同じ方法で地球も発見することができるのでしょうか? 地球が太陽の手前を横切ることによって生じる太陽の明るさの変化は、0.01%。地球と同じくらい周辺の宇宙空間が澄んでいて、TESSと同じくらいの性能の宇宙望遠鏡を使って観測できる科学技術があれば、発見は可能だと思われます。ということは、私たちはすでにどこかの宇宙人に発見されていて、じっくりと観察が続けられているのかもしれませんね。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部)
【参考資料】
「TESS Exoplanet Mission」(NASA)
『宇宙と地球を視る人工衛星100 スプートニク1号からひまわり、ハッブル、WMAP、スターダスト、はやぶさ、みちびきまで』 地球の軌道上には、世界各国から打ち上げられた人工衛星が周回し、私たちの生活に必要なデータや、宇宙の謎の解明に務めています。本書は、いまや人類の未来に欠かせない存在となったこれら人工衛星について、歴史から各機種の役割、ミッション状況などを解説したものです。