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杉江弘「機長の目」

羽田空港、東京都心上空新ルートで都民の生命に危険…部品落下や騒音、国は検証せず

文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長
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羽田空港、東京都心上空新ルートで都民の生命に危険…部品落下や騒音、国は検証せずの画像1羽田空港の滑走路(「Wikipedia」より/ZS-ZWE)

 2020年の東京五輪に向けて、羽田空港の発着に東京都心を飛行する新ルートを設けることが話題になっている。政府は20年に向け訪日外国人を4000万人とする目標を掲げ、それに合わせて国土交通省が、国際線の発着回数を現在の約6万回から約1.7倍の約9.9万回に増やす計画を策定した。

 とりわけ高い需要が見込まれる羽田空港での発着を増やすために考え出されたのが、この新ルートだ。夏場の南風のときに、現行の東京湾上空を飛行して滑走路22と23(磁方位)に着陸する方式を変更して、埼玉県から都心の上空を降下して滑走路16L&R(左右の平行滑走路)に着陸する方式にする。この方法だと2分に1回の着陸が見込まれるとしているが、私はその机上の計算に異議を唱えたい。

 というのも、離着陸時における航空機と航空機の間隔を空けるのは、先行機の出す後流に巻き込まれて姿勢を崩すのを避けるためだ。2分以上の間隔をとることが管制上義務付けられていることや、着陸機の間をぬって出発機を離陸させるときに着陸機が必ずしも管制官からの希望に従うとは限らず、滑走路の途中から誘導路に入ってくれずに滑走路端近くまで滑走して長い時間ブロックすることが特に外国機に目立つ。

 こうした現実を考えると、2分に1回の着陸というのは絵に描いた餅となる可能性が高い。国交省にはこの点について詳しい説明が求められる。

事故が起こらないといえるのか

 新ルートが抱えている大きな問題点は4つある。

 まず第一に、人口密集地でもし航空機が墜落するような事故が発生したらどうするのか。機材のトラブルや、積乱雲によるダウンバーストした下降気流も、操縦を困難にすることがあるが、現代のハイテク機は自動操縦装置のモードの使い方などにミスが起これば、機体やエンジンに問題がなくても大事故につながる可能性がある。

 1994年4月に名古屋空港へ進入中に墜落した中華航空機の事故を思い出してほしい。滑走路手前に墜落して264名の死者を出したこの事故の原因は、パイロットがスラストレバー(推力調整レバー)を保持していたときに、手が誤ってゴーレバーを動かすボタンを押してしまったことだ。

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

1946年、愛知県生まれ。1969年、慶應義塾大学法学部卒業。同年、日本航空に入社。DC-8、B747、エンブラエルE170などに乗務する。首相フライトなど政府要請による特別便の経験も多い。B747の飛行時間では世界一の1万4051(機長として1万2007)時間を記録し、2011年10月の退役までの総飛行時間(全ての機種)は2万1000時間を超える。安全推進部調査役時代には同社の重要な安全運航のポリシーの立案、推進に従事した。現在は航空問題(最近ではLCCの安全性)について解説、啓発活動を行っている。また海外での生活体験を基に日本と外国の文化の違いを解説し、日本と日本人の将来のあるべき姿などにも一石を投じている。日本エッセイスト・クラブ会員。著書多数。近著に『航空運賃の歴史と現況』(戎光祥出版)がある。
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Twitter:@CaptainSugie

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