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木村貴「経済で読み解く日本史」

地球、寒冷化の脅威…近づく氷期突入、人類にとって最大の災害

文=木村貴/経済ジャーナリスト

縄文時代の豊かさ

 発掘された縄文人の骨で40歳以上のものは少ないし、骨の残りにくい乳幼児の死亡率をあわせて考えれば、寿命はきわめて短いものだったと推定される。縄文時代がまるでユートピアだったかのような主張は行きすぎである。それでも、それまでの旧石器時代と比べれば豊かな社会であったことは間違いない。

 縄文時代の豊かさを象徴するのは、青森市にある三内丸山遺跡である。紀元前3500年頃から約1500年間も続いた縄文時代最大級の遺跡で、長期間にわたって定住生活が営まれていた。八甲田山の裾野、沖館川の右岸に位置し、北に陸奥湾を控える。当時の海面は今より高かったことから、海がすぐ近くまで来ていたと思われる。

 南にはブナの森が広がり、全体では約35ヘクタールに及ぶ広大な遺跡である。竪穴住居跡が約500軒、大型住居跡が約10棟あり、大人や子供の墓、盛土、貯蔵穴、粘土採掘坑、ゴミ捨て場などが見つかった。貯蔵穴で蓄えたのは、おもにナッツの類と考えられる。大きな貯蔵穴が多数つくられたのは、温暖な気候のおかげで木の実の収穫が増えたためとみられる。

 縄文時代の豊かさを示すもう一つの例は、東京都にある中里貝塚だ。南北100メートル以上、東西500メートル以上の範囲に最大で厚さ4.5メートル以上の貝層が広がる、日本最大の貝塚である。貝層はほとんどハマグリとカキからなる。しかも大きな貝殻ばかりで、生活の道具類や食べかすをほとんど含まない。貝類の加工を専門に行う、水産加工場のような場所だったとみられる。

 貝層中に0.5~1.5メートルほどの浅い皿状の穴がある。内面には水が漏れないように粘土を貼り、中に焼石やカキの殻が残っていた。穴に海水を張り、熱した石を投入して海水を沸騰させ、貝を煮たようだ。

 地域ごとに取れる食料が異なり、それに特化した技術が発達するにつれ、地域間の交易が盛んになる。当時の交易は非常に広範囲に及んだ。三内丸山遺跡からは、北海道・長野県の黒曜石や、新潟県のヒスイでつくったアクセサリーなどが見つかっている。

 経済が豊かになると文化も栄える。大規模な集落ができ、人口のピークを迎えた縄文時代中期、火焔型土器や縄文のビーナスなど縄文文化中でも最も力強く、自由な作品がつくられた。

木村 貴/経済ジャーナリスト

木村 貴/経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。1964年熊本生まれ、一橋大学法学部卒業。大手新聞社で証券・金融・国際経済の記者として活躍。欧州で支局長を経験。勤務のかたわら、欧米の自由主義的な経済学を学ぶ。現在は記者職を離れ、経済を中心テーマに個人で著作活動を行う。

Twitter:@libertypressjp

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