8月29日に愛知県常滑市で開催された野外音楽イベント「NAMIMONOGATARI2021」の余波が広がり続けている。
同イベントは、新型コロナウイルスの感染防止対策が不十分であったことが指摘されており、愛知県知事や常滑市長からも批判の声があがった。さらに9月7日には、同イベント参加者の間で少なくとも14人の感染が確認され、クラスターが発生したと愛知県が発表。
8日には加藤勝信官房長官が、経済産業省による補助金の交付を取り消したことを明らかにし、「今回みたいなやり方は、断じて認めるわけにはいかない」と強い口調で怒りをあらわにした。
出演したアーティストも続々と謝罪コメントを発表するなど、異常な事態になっている。批判の声が高まったことを受けて、イベントの主催者も謝罪コメントを公式サイト上に出したものの、愛知県から酒類提供を許可されていたかのような文言があり、大村秀章知事が「事実と異なる」「嘘をついて平気」「許せない」など、厳しい言葉で再び主催者を非難。
そして9月3日、主催者は先に出した謝罪文を削除し、あらためて謝罪と経緯を説明する文を公式サイト上に掲載。「様々な経緯があったとは言え、独自の判断においてアルコール類を販売したことも事実です」として、県の許可ではなく、「独自の判断」でアルコールを提供したなどと説明して、判断の甘さを反省した。
他方、このイベントに参加した観客に対しても批判の声は収まらない。緊急事態宣言が出ているなかで、大勢の人が集まる場所に出向き、なかにはマスクを外して大声を上げる人たちもいる状態で密集し、さらには飲酒もするなど、コロナを甘く見すぎているといった指摘が多数でている。
そんななか、Twitter上に、病院らしき施設の貼り紙があげられた。
「FUJIROCKFESTIVAL’21
NAMIMONOGATARI2021
いずれかの参加者の来院を9/12までお断りしております。ご理解ご協力をよろしくお願いいたします」
このツイートは瞬く間に拡散され、賛否両論が噴出した。「事実なら医師として問題」と指摘する向きもあるが、「これだけ医療が逼迫しているなかで、わざわざ大規模イベントに参加してコロナに感染した人は医療機関に負担をかけてほしくない」「この貼り紙には100%同調する」など、貼り紙の趣旨を擁護する声が大勢を占めた。
最前線でコロナと戦う医療従事者にしてみれば、感染予防を徹底したうえでも感染したならばいざ知らず、対策が不十分ななかで騒いで感染した人の面倒などみたくない、という思いが出てきても不思議ではないが、実際に患者の受け入れを拒否することなど許されるのだろうか。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士は、次のように解説する。
「医師法第19条は、『診療に従事する医師は、診療治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない』として、”応招義務”を規定しております。そして『正当な事由』として断ることができるかどうかについては、
(1)病状の深刻度(緊急対応が必要か)
(2)診療時間との関係
(3)患者と医師との信頼関係
の3つを考慮して検討することになります。
貼り紙がどこの病院はわかりませんが、『フェス参加者は診療しない』という差別的対応は、上記(1)~(3)の考慮に入らないのでアウトで、真実なら恐ろしい話です。
なお、従前(といっても旧憲法下)は刑事罰もありましたが、今はありません。しかし、医師免許に対する行政処分の対象にはなるのかもしれません(実際に応招義務に違反した医師への処分の例は確認されていませんが)」
事実か否かは不明だが、実際にこのような貼り紙を掲げているとすれば、医師としては大きな問題となりそうだ。
9月18、19日には、千葉県で大規模な音楽フェスティバル「スーパーソニック」が開催される。同イベントについては、千葉県や千葉市が開催の延期や規模の縮小などを要求しているが、主催者は予定通りの開催を宣告している。参加アーティストや観客などに誹謗中傷が寄せられないよう、主催者には細心の注意を払ってもらいたい。
(文=編集部)