また、これと関連して、日本の「オウンゴール」説も複数のメディアで取り上げられた。徴用工問題と「光復を記念するTシャツ」はいうまでもなく、ともに日本の植民統治に由来している。それがBTSのネームバリューによって海外にまで報じられると、日本の「過去の蛮行」がそれだけ世界に知れ渡る、という理屈だ。「ハンギョレ新聞」(11月9日付)は、「『光復記念Tシャツ』を着たという理由で出演がキャンセルされたというニュースにともなって日本の植民統治に再び注目が集まり、日本の戦犯行為を全世界に知らせる起爆剤になっている」と報じている。
保守野党「日本の文化的低級さを表している」
日本政界の報復だとすれば、当然ながら韓国政界も黙っているわけにいかない。中道左派の野党・民主平和党は11月10日、スポークスマンを通じて「公演キャンセルは日本が戦犯国家であることを全世界に宣伝する結果になるだけ」と「オウンゴール」説を披露している。
また保守系野党の自由韓国党は同日、「メディアが一部政治家とネット世論の顔色を伺ったことは世界の冷笑を買うだろう」「日本でも人気の高いスターをTシャツ1つだけで出演をキャンセルするということは、日本の文化的低級さを端的に表している」との論評を伝えた。一方、与党・共に民主党は「日本の放送局が政治的な理由でBTSの出演を取り消したとすれば、望ましくないことだ」と評するにとどめている。
SWC声明で「オウンゴール」説が逆転?
もっとも韓国メディアや政界に根強い「オウンゴール」説は、文字通りそれを唱える韓国側に返ってくるかもしれない。冒頭で伝えたSWCの声明は、原爆写真も含めた上でBTS側を非難しているからだ。
SWCは声明で「日本でTシャツを着て長崎の原爆の犠牲者を嘲笑うのは、このグループによる過去の嘲笑の最も新しい事例にすぎない」とし、ナチス表現と原爆Tシャツを結びつけて強く非難している(※なお、問題のTシャツを日本で着たかどうかは未確認)。声明はさらにこう続く。
「(ナチス風演出を通じて)グループのキャリアをつくり宣伝していくことが、過去の記憶を貶める上で非常に都合がいいのは明らかだ。その結果、韓国や全世界の若い世代は『クール』であるために偏見と不寛容を受け入れ、歴史の教訓を消す手助けをするだろう」
「過去を忘れた民族に未来はありません」というお決まりのフレーズが、自分たちに返ってくるかたちとなったBTS。全世界に広まった騒動の余波をどう切り抜けるのか、今後の動向に注目したい。
(文=高月靖/ジャーナリスト)