先日7月21日に投開票された参議院議員選挙からいわゆる“ネット選挙”解禁となり、新しいビジネスに対する期待も高まったが、空振りに終わった。古い政治(家)とネット選挙はミスマッチだったのか?
ツイッター、政治家ブログに強いサイバーエージェント、政治動画を配信してきたドワンゴが兜町では関心を集めたが、選挙期間中も株価は盛り上がらなかった。「勝ち組」を探すのは難しいが、あえて選ぶとするとデジタルハーツか。サイバー攻撃や情報流出を防ぐサービスを自民党から受注した。
ネット選挙の費用も国が出すべきだという議論が高まりそうだ。新聞広告や、はがき、ポスター、ビラ、選挙カー、政見放送の費用の多くは税金から出している。ネットにも国が金を出せという主張だ。ネット選挙の費用が税金で賄われるようになれば、本物の選挙ビジネスが生まれるかもしれない。
●問われる発信情報の質
候補者や政党がネットで発信したのは街頭演説の日時や場所が大半で、有権者が知りたい政策に関する情報発信はほとんどなかった。ネット選挙の解禁で、政治家が発信する情報の質の低さが浮き彫りになった。ネット本来の力である双方向性が生かされたとはいえない。候補者と有権者の双方向の議論は、ほとんどなかった。
東京選挙区では、当選した山本太郎氏と落選した鈴木寛氏の陣営が、ネット上で激しいバトルを展開した。選挙戦中、鈴木候補が演説中に殴られると、「狂言か自作自演の疑い」と山本陣営がツイッターに書き込みをしたことからエスカレート。終盤にはネット掲示板に山本候補への「殺人予告」が書き込まれた。山本候補は街頭演説で「僕は鈴木さんを引きずり降ろしたい。放射能の拡散を予測する緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)のデータを僕たちに教えなかった」と、鈴木候補が文部科学副大臣だった時の文科省の原発事故への対応を批判した。
これに対して鈴木氏は「デマ」「作り話」「事実無根」と訴えた。「山本候補の演説は人として悲しい」と反論。演説中に殴られたことが自作自演だったとの疑惑を含めて否定したが、こうした情報はツイッターでどんどん拡散し、結果的に鈴木候補は12年間守ってきた議席を失った。IT通の鈴木候補がIT選挙で負けたことになる。そして山本候補を支えた勝手連の真の姿にも関心が集まった。
東京選挙区で選挙期間中にツイッターへの投稿数が最も多かったのは共産党の吉良佳子候補で857件。ツイッター、フェイスブック、ブログの総件数は902件だった。吉良氏は共産党として東京で12年ぶりの議席を獲得した。ネット選挙をうまく活用した好例といわれている。
しかし、投票先を決める際にネット情報を参考にしたかとの問いに対し、「参考にしなかった」と答えた有権者が全体の80%を占め、「参考にした」の11%を大幅に上回った(読売新聞と日本テレビ系列各社が7月21日に共同で実施した出口調査結果)。参考にしなかったは30代で79%、20代で73%に達する。ネット利用者が多い若年層でも、あまり参考にされなかったという結果が出た。ネット選挙は一部で誹謗中傷があふれたが、全体には低調だったことがはっきりした。共同通信の出口調査では、ネット情報を参考にしなかった人が86%に上った。
低調だった原因は、大半の候補者が一方通行の情報発信に終始した点が挙げられる。ネット上で注目された候補者が落選するなど、ネットとリアル(実際の選挙戦)とのズレも目立った。一言で言ってしまえば候補者と有権者がつながらなかった、つながりきれなかったということだ。政治家による情報発信量は爆発的に増えたが、肝心の情報の質はといえば、「安倍首相が応援に駆けつけてくださいました」といった類いのものばかりだった。
ツイッターを運営するTwitter Japanによると、候補者へのなりすましは数件にとどまったが、ゼロではなかったという。有権者との関係を継続的に築いていく、という政治家の基本中の基本が忠実に実行されるようにならない限り、ネット選挙は根付かない。
●落選運動、ネガティブキャンペーンも
今回の選挙では、三木谷浩史・楽天社長兼会長が理事を務める新経済連盟が、特定候補を推薦して話題になったが、8候補の当落は次のようになった。