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江川紹子の「事件ウオッチ」第120回

【沖縄・辺野古移設賛否】県民投票不参加問題から考える、沖縄と民主主義

文=江川紹子/ジャーナリスト
【沖縄・辺野古移設賛否】県民投票不参加問題から考える、沖縄と民主主義の画像1昨年11月、記者会見で県民投票の日程を発表し、「県民が意思を示す非常に重要な機会だ。そのことそのものの意義が大きい」と語った玉城デニー知事(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)。

 沖縄県名護市辺野古の新基地建設に必要な埋め立ての賛否を問う県民投票に、5市が不参加を表明し、県民の約3割が投票の機会を奪われる事態に直面していた問題は、投票の選択肢を賛否の二者択一から「どちらでもない」を加えた3択へと変更する条例改正をすることで解決に向けて動き出した。

時に大きな政策変更をもたらす住民投票

 投票を巡る今回のゴタゴタは、民主主義のあり方や政治的な意見の違いがもたらす人々の分断をどう緩和するか、という点で考えさせられるところが多い。

 改めて説明するまでもなく、この基地建設は、町中にあり危険性の高い普天間飛行場(宜野湾市)の返還を米側に求めるにあたって、移転先として計画されたもの。ただ、新たな機能も付加されることになり、「移転ではなく新基地建設だ」という意見もある。

 沖縄の米軍基地は、普天間飛行場などのように戦争中に沖縄に上陸した米軍が「銃剣とブルドーザー」で、すなわち住民を収容所に入れている間に土地を接収し、建設したもののほか、戦後、本土で反基地感情が高まる中、米軍統治下の沖縄に移転したケースもある。その結果、日本の国土の0.6%しかない沖縄に、今も米軍専用施設の7割以上が集中する。

 この過重な負担に対する不公平感と、それにもかかわらず本土の人々が問題に関心を寄せない苛立ち、反対の声には耳を貸さず「辺野古が唯一」をくり返す政府への反発が、基地建設反対の沖縄世論の根っこにある。

 そんななかで、国に「なぜ辺野古でなければならないのか」をきちんと説明させ、県民自身の意思表示をしようと、昨年5月、市民団体が県民投票の実施を求めて署名活動を始めた。地方自治法が定める条件の約4倍にあたる9万2848筆の有権者署名を集め、9月、県議会に直接請求した。

 これを受けて、県政与党を中心に、埋め立てに「賛成」「反対」の二者択一で投票する条例案を提出した。これに対し、県政では野党の自民党は、「賛成」「反対」という2択で表現できるほど単純ではない、として2択案に強く反対。公明党とともに「やむを得ない」「どちらとも言えない」を加えた4択案を提出した。

 確かに、いくら反対の意思を表明しても国が受け入れないことに疲れ、「やむを得ない」と諦め、基地建設に協力した場合に得られる交付金などに期待する人たちもいる。ただ、結局のところ、これは「賛成」のひとつの態様にすぎない。「反対」の中にも、いろいろな意見があろう。

 直接請求によって求められたのが賛否を問うかたちでの県民投票だったこともあり、昨年10月の県議会では、2択案が賛成多数で可決され、4択案は否決された。条例は、「公布から6カ月以内に投票を行う」と定めており、2月24日に実施が決まった。

 沖縄では、1996年にも県民投票を実施したことがある。前年9月に米兵3人による少女暴行事件が発生、米軍基地問題が改めて大きな社会問題としてクローズアップされ、日米地位協定の見直しと米軍基地の整理・縮小について賛否を問う形で投票が行われた。全国で初めての都道府県レベルの住民投票としても注目された。

 住民投票は、時に大きな政策変更をもたらす。東北電力が新潟県西蒲原郡巻町(現・新潟市西蒲区)に計画していた原子力発電所は、町議会、町長、県知事が同意していたが、1996年8月に条例制定による全国初めての住民投票が行われた結果、反対派が勝利。その後の曲折もあって、結局、東北電力は計画を撤回する。

 徳島県の吉野川に可動堰(せき)を新設する国の計画に対し、環境悪化などの懸念から反対運動が起こった件でも、徳島市で2000年1月に住民投票が行われた。結果は、反対票が9割に達し、市も建設反対に転じ、計画は中止となった。

 ただ、こうした住民投票は、国に対して政策変更をさせる強制力はない。96年の沖縄の県民投票では、基地整理・縮小と日米地位協定の見直しに「賛成」が89.09%という圧倒的な結果で、沖縄の民意を広く伝える機会にはなったが、今なお基地問題は沖縄に大きな負担となっている。

 今回の県民投票も、政府に対する強制力はない。しかし、県民投票を求める側には、昨年の県知事選挙で県民の民意が示された後も、「普天間の危険性を除去するには辺野古以外ない」とくり返すばかりの政府に対し、「なぜ辺野古しかないのか」という丁寧な説明を県民に対してしてもらう機会にしたい、という期待もある。

 投票に関わる費用は沖縄県が負担するが、投票入場券の送付など投開票に関する事務は市町村が行うことになっている。ところが、普天間基地のある宜野湾市など5市が、県からの交付金を財源とした投票事務経費を計上した予算を否決。首長の権限でもこの予算は執行できるが、市長らはこれを拒否した。

 これによって、3割以上の県民が投票の機会を奪われる事態に直面。県民投票を求めてきた27歳の青年が、投票実施を求めるハンガーストライキを行ったり、不参加を表明した5市で署名活動が行われるなど、不参加撤回の働きかけが行われた。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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