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百田尚樹氏『日本国紀』、「太平洋戦争は米国と中国に一方的に原因」は自己満足にすぎない

文=八幡和郎/評論家、歴史作家
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百田尚樹氏『日本国紀』、「太平洋戦争は米国と中国に一方的に原因」は自己満足にすぎないの画像1『日本国紀』(百田尚樹/幻冬舎)

 1月19日付記事「百田尚樹『日本国紀』は世紀の名作かトンデモ本か」、2月10日付記事「ベストセラーの百田尚樹『日本国紀』、天皇の万世一系を否定しつつ称揚するという矛盾」に続き、百田尚樹氏の著書『日本国紀』(幻冬舎)について言及したい。

 百田氏はどうも、長州とは肌があわないようだ。安倍晋三首相にも近いと言われているのに不思議なのだが、長州を徹底的に軽視しているし、あまり好意的なものではない。

 薩摩や佐賀などがどうして勃興してきたかは詳しく紹介されるが、長州は突然に登場するだけ。吉田松陰に関する記述は1行だけだし、尊王攘夷思想もあたかも無謀な保守反動思想のように扱われ、村田清風、吉田松陰、高杉晋作らの目がしっかり世界に向けられていたことなど無視している。征長戦争の勝利も、坂本龍馬と薩摩が武器を横流ししてくれたからといわんばかりの扱いだ。

 伊藤博文の名は韓国統監としてしか登場せず、山県有朋、桂太郎、乃木希典、児玉源太郎、佐藤栄作もまったく触れられていないか、それに近い。

 薩摩は島津斉彬、西郷隆盛、大久保利通、東郷元帥などについて、しっかり語られているのに比べ、大違いだ。明治維新をどう評価しているかも、よくわからない。小栗忠順など幕臣たちを非常に持ち上げているので、読んでいると、どうして幕府がダメだったのか、さっぱりわからなくなる。私は長州人以上に長州びいきだし、幕府ではなぜ新しい時代を開けなかったのかをテーマに歴史を書いてきたので、この点についてはまったく意見が違う。

戦争の原因について日本の責任を過小評価

 太平洋戦争とそこに至る道については、百田氏がもっとも思い入れのあるところであるので、さすがに充実した内容になっていて、事実関係の把握なども良好である。いわゆる保守派の人の心情がほとばしり出ているが、軍部や官僚たちへの批判もきちんと書かれており、そういう意味でバランスが悪いものではない。

 しかし、やはり国際政治を扱ってきた人間の立場からすれば、日本側の心情としてはよくわかるが、国際的な説得力があるかといえば、やや疑問である。というより、そういうことはめざしていないのだと思う。良くも悪くも、適正な反省はするが、先祖たちに誇りを持とうという、自己満足を得ることを主眼にしているように見受けられる。

 百田氏の考え方は、戦争至ったのは、日本に責められるべきところはあまりなくて、欧米の身勝手と中国のずるさが主たる原因とする。しかし、日本の外交力とか作戦遂行能力には非常に問題が多く、そこでは軍部だけでなく外交官を含む官僚、さらには政治家やマスコミの責任も大きいといったあたりだろうか。

 南京事件などについては、日本軍の暴虐については強い否定論ではないが、日本軍の軍規全般は非常に良好だったという見解であり、それは少し説得力がない。

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