先月、米国でトランプ政権のロシア疑惑を捜査中のロバート・モラー特別検察官が、新たな疑惑報道を否定する異例の声明を出し、注目を集めた。
問題の報道は、米ニュースサイト「バズフィード」が複数の捜査関係者の話として1月17日に伝えた。モスクワでの「トランプタワー」建設事業計画をめぐり、トランプ米大統領が元顧問弁護士マイケル・コーエン氏に議会で偽証をするように指示したという。
ところがモラー氏は18日夜、「バズフィードの記述は正確ではない」との声明を発表した。その後、バズフィードの報道を裏付けるような事実は判明しておらず、このままではやはりフェイク(偽)ニュースだったということになりそうだ。
バズフィードは急成長してきたネットメディア。2017年1月、ロシア疑惑の発端となった秘密文書の全文を公開したことでも知られる。しかしその後、この文書がじつは米大統領選でトランプ氏と争った民主党のヒラリー・クリントン陣営などの委託で作成されていたことが判明。内容にも虚偽が多かった。
今回、モラー氏から否定された偽証報道は、ロシア疑惑に関するバズフィードの報道姿勢に、あらためて疑念を呼び起こしている。
バズフィードに限らない。16年の米大統領選挙でロシアが共和党のトランプ候補を勝たせるため、トランプ陣営と共謀し世論工作や選挙干渉を行ったとされるロシア疑惑(ロシアゲート)について、多くの米欧主流メディアが2年以上にわたり大々的に報じてきたが、共謀を示す証拠はいまだに見つかっていない。
それどころか、誤報と判明したお粗末な報道が少なくない。おもな偽ニュースを時系列で振り返ってみよう。
(1)不透明な調査受け売り
大統領選の結果をめぐり、ネット上の偽ニュースが有権者の判断に影響を及ぼしたという主張が広がり始めた16年11月24日、米紙ワシントン・ポストは、偽ニュースの背景にはロシアのプロパガンダ戦略があったとする記事を掲載した。
記事では、非営利団体「プロップオアノット」の報告書の内容を紹介。同団体はウェブサイトに掲載したリストで、選挙期間中にロシアの政治的宣伝を流し続けたというウェブサイトを200以上列挙した。
ところがワシントン・ポストはこの調査団体について「外交政策、軍事、技術畑出身の無党派研究者集団」とするだけで、個人名などは伏せたまま。リスト掲載の基準も不明瞭であるため、他のジャーナリストなどから「信憑性に欠ける情報を引用している」と批判された。
記事を書いたクレイグ・ティンバーグ記者は「個々のウェブサイトに関するプロップオアノットによる調査結果の正しさを保証するものではない」と断っているが、実体不明の団体の不透明な調査を裏付けも取らずに受け売りしたとすれば、無責任のそしりは免れないだろう。