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自衛隊でまたパワハラ自殺事件、処分受けた上司もパワハラ被害者だった?超閉鎖空間の異常性

文=秋山謙一郎/経済ジャーナリスト
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 こうした旧来からの自衛官たちの価値観と“艦長絶対主義”という海自の組織風土が、若い頃は「大人しい人」(前運用長と親しい後輩隊員)だったという前運用長の人柄を変え、パワハラ加害という行動へと駆り立てたのかもしれない。その意味では、彼もまたパワハラの被害者といえるのかもしれない。

約8000万円の賠償額(認容額)も

 過去、自衛隊でのパワハラ・自殺事案では、2004年の護衛艦「たちかぜ」の件で7700万円の国家賠償請求額が、2011年の航空自衛隊浜松基地の件で8015万円が認められた。

 今回の事案は、幹部自衛官による幹部自衛官へのパワハラによる自殺だ。複数の弁護士によると、賠償額は「1億円を超える可能性もある」という。

 前運用長と自衛隊同期入隊者のひとりは、「亡くなった3尉のご冥福を心からお祈りする」と前置きし、前運用長の様子をこう語った。

「人が亡くなっている事件だけに、本人も責任を痛感しているはずだ。裁判などになれば、彼が責任を感じて自殺しやしないかと同期のひとりとして心配している」

 事件関係者によると、亡くなった3尉の遺族は、事をこれ以上荒立てず、そっとしておいてほしいとの意向で、今回処分された前艦長、前運用長、前船務長ら3幹部自衛官や海自への国家賠償請求訴訟や、刑事告訴などは行わない見通しだという。

 これにより事件は、3幹部自衛官の停職処分明けをもって終結することになる。

課題は懲戒を受けた3幹部自衛官をどう生かすか

 事件・事故とは起きてしまうものだ。大事なのは、その事故から何を学ぶかだ。

 今回の事件を教訓とし、海自は部下が上司を匿名で“逆評価”するなどの人事制度を確立するといった「艦長絶対主義」を見直すための抜本的な人事改革を行う必要がある。

 同時に、懲戒3幹部自衛官をただ切り捨てるのではなく、「どうしたら同様の事件が起こらないか」を丁寧に聞き取り、これを生かす場を設けなければならない。

 たとえば、人事やメンタルヘルスといったセクションで、かつて当事者だった者の立場から「パワハラ根絶」のために働いてもらうなどだ。

 今後の彼らの生き方は、海自に属する人たち全員と国民が注視している。懲戒処分を受け、艦乗りとしての人生設計の変更を余儀なくされたからといって、単に定年まで自衛隊という安定した組織にしがみつくような生き方を許すことがあってはならない。

 3幹部自衛官が海自で真にパワハラ根絶のために汗を流す姿を見せれば、きっと手を差し伸べる同僚が現れるはずだ。自らの生き方をもって、今回の事件と向き合う義務が彼らにはある。それを自覚すべきだ。海自もまた、そんな彼らを生かす義務がある。
(文=秋山謙一郎/経済ジャーナリスト)

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