「前運用長は、若い頃から部下や後輩に暴力を振るったり、声を荒らげたりするような人ではありませんでした。今回、被処分者として彼の名前があがり、非常に驚いています」
海自の調査によると、この前運用長は3尉が自殺する前、「退職したい」と辞意を伝えた際に「自分で考えろ」と言い放ち、その後も直属上司として親身になって3尉の相談に乗るなどの対応を“何も行わなかった”とされる。
だが、こうした海自側が出す調査結果に、前出の後輩現役下士官は違和感を持つという。
「若い頃から前運用長は、そもそも口数の少ない人でした。この『自分で考えろ』とは、『何も辞める必要はないだろう』ということを(3尉に)伝えたかったのではないでしょうか。どうも、事件が表面化してから、ただ前艦長の命令に従っただけの前運用長を、悪意を持って捉え、切り捨てようという動きがあるように思えてなりません」
「停職30日」「停職20日」が意味するものとは?
この現役下士官が言う“切り捨てようという動き”とは、冒頭で挙げた懲戒処分の停職日数を指す。従来、パワハラ事案での停職処分日数は、「せいぜい5日か6日程度」(海幕関係者)というのが相場だった。
しかし、今回は艦の責任者である前艦長が停職30日、前運用長と前船務長がそれぞれ同20日だ。随分と重い処分となっているが、これには理由がある。海幕関係者のひとりが内幕を明かす。
「人が死んでいる事案です。単なるパワハラ事案での処分とは事情が違う」
そして、この「停職30日」「停職20日」という数字が持つ意味、海自側の“言外のメッセージ”を、こう推測する。
「自発的に(海上自衛隊を)辞めてくれ、ということでしょう」
一度懲戒処分を受けると、自衛隊に在職している限り、ずっとこの処分歴はついてまわる。当然ながら昇任は難しく、給与面でも響く。再就職にも影響しかねない。これからの人生は厳しいものとなる。
もっとも、前運用長と自衛隊同期入隊者や後輩たちも、この処分日数が意味する海自側のメッセージは十分理解しているようだ。その上で彼らは、こう声を上げる。
「前運用長もまた、『ときわ』に着任して間もなかった。前艦長に追い立てられて、直属部下である3尉に無理な指導を余儀なくされたところもあると聞く。そうした“艦ならではの事情”が、今回下された処分には反映されていない。そこには不満を覚えます」
とはいえ、幹部自衛官である以上、たとえ階級が高位でも上席にあたる艦長の組織運営に問題があれば、これは一般企業でいうところの上級セクション、今回のケースだと補給艦「ときわ」が所属する第1海上補給隊や護衛艦隊の司令部、あるいは“本社”にあたる海上幕僚監部補任課といったところと協議し、適切な対応を促すことができただろう。
しかし、この上級司令部や、しかるべきセクションへの“通報”という行為を是としない空気感が、海自という組織そのもの、あるいは自衛官たちにはある。潔くない、男らしくないというのが、その理由だ。また、そうした行為は、「(同じ艦に勤務する)仲間を売る行為」として忌み嫌われているところもある。