一方、オーストラリアでは14年、中国人実業家の黄向墨がシドニー工科大学を拠点とするシンクタンクACRI(豪中関係研究所)を設立。ACRIは過去2年にわたってオーストラリアの著名なジャーナリストを豪華な中国ツアーに招待し、数々の親中的な報道を引き出した。
同様の事業はアメリカでも行われている。中国政府に近い香港の大富豪が08年に設立したCUSEF(中米交流基金)がその一例だ。CUSEFもジャーナリストらをツアーに招待するなどして、アメリカ国内の対中報道に影響を及ぼしているという。
米トランプ政権は中国のこうした動きに激しい敵意を見せている。昨年10月にはペンス副大統領が演説を通じて、中国政府のメディア介入を厳しく非難。トランプ大統領も9月、アイオワ州の地方紙に挟み込まれていた「チャイナウォッチ」を引き合いに出し、自分の有望さを損ねる「ニセのメッセージ」で中国が中間選挙に介入したとの批判を繰り広げた。
ディストピア化が現実となる中国国内
世界各地で報道、言論の支配を強める中国政府。一方で国内では、国民に対する究極の支配体制を整備しつつある。欧米メディアが「ディストピアの到来」と非難を強める「社会的信用システム」がそれだ。
これは金融機関が共有するブラックリスト情報のように、国民の「社会的信用度」を政府がランクづけする制度。品行方正で信用度が高い国民は優遇措置が受けられる半面、法律違反、契約不履行、不正行為などで低く評価された国民は、交通機関の利用や経済活動が制限されるなどのペナルティを科される。中国当局によると、昨年5月末までに1100万人がこの制度によって旅客機の利用を差し止められたという。
国家レベルのシステム構築はまだ途上にあり、現在は各自治体がさまざまな「パイロット版」を試行している。21年から導入する北京市は複数の行政機関が連携し、市民一人ひとりのより詳細なデータベースを構築。また、それに基づいた特典やペナルティを、幅広い行政サービスに反映させていく方針だ。
中国当局は、この制度によって「信頼が栄誉あることだという世論環境がつくられる」としている。しかしニューズウィークは5月1日付記事で、公務員の腐敗を告発したジャーナリストが旅客機の搭乗を断られた事例を紹介。国内向けの情報統制が同制度でいっそう加速するのは確実だろう。
「世界の中心を東へシフトさせ、中国をその中心とする世界秩序の概念を広めようとしている」(ガーディアン)とされる中国。これからどんな未来を人類にもたらそうとしているのだろうか。
(文=高月靖/ジャーナリスト)