現役時代、筆者は稲川会の清田次郎会長と内堀和也理事長の姿を一度だけ見たことがあった。それは、2012年に行われた五代目山口組・渡辺芳則組長のお通夜でのこと。他組織からの参列は、親しい関係にあった稲川会だけに限られており、筆者はその時、他の親分衆の付きの組員らと整列し、清田会長と内堀理事長を出迎えたのだが、独特の雰囲気を放ちながら目前を通る2人の姿を見つつ、「この人たちが稲川会のトップとナンバー2の親分か……」と、感慨深く感じたことを鮮明に記憶している。
今年に入り、業界関係者の間で“ある噂”が囁かれていた。それは時間の経過とともに、信憑性の高いものとして関係者の間に拡散されていった。
その噂とは、関東の雄「稲川会」の代替わりである。稲川会といえば、六代目山口組と親戚関係にある組織としても知られており、六代目山口組分裂後いち早く六代目山口組を支持したことは有名だ。
特に稲川会の実質的ナンバー2である、理事長を務める三代目山川一家・内堀和也総長は、六代目山口組の中枢組織である三代目弘道会・竹内照明会長と五分兄弟の盃を交わしている間柄で、固い絆で結ばれているといわれているほどだ。その内堀総長が、近々稲川会の会長に就任するのではないかというのである。
「正式発表こそされていませんが、すでに盃の日取りまで決定していると話す関係者もいます。内堀理事長は竹内会長と兄弟分ということもあって、六代目山口組分裂直後には、弘道会の定例会に合わせて弘道会本部を訪ね、その親密さを内外に示したこともあるほどです。内堀理事長が稲川会会長に就任すれば、六代目山口組の分裂騒動になんらかの影響を及ぼす可能性もあるのではないでしょうか」(ジャーナリスト)
確かに、兄弟分の組織が分裂騒動の渦中にあれば、それを解決するために、なんらかの動きを見せたとしてもおかしくはない。ヤクザの道理とはそういうものだ。稲川会が新体制を発足させれば、これまで以上に六代目山口組サイドを後押し、分裂状態収束に向けて、積極的に動き出すことも十分に考えられるというのである。
神戸山口組でも他組織との関係強化か
一方で、神戸山口組においても、他組織との親睦を深めるための動きがあった。神戸山口組と友好関係にある他組織の首脳らが井上邦雄組長のもとを訪ね、食事会を開催したというのだ。
「外交面でいえば、神戸山口組も結成当初から六代目山口組に決して劣っていないのではないか。それは先日、井上組長邸で開かれた食事会の親分衆の面子を見ても明らかだ。全国の有力組織のトップらが一堂に会している」(神戸山口組関係者)
ただ、この食事会の様子を受けて業界関係者は騒然とし、事実確認を急ぐ事態になったという。地元関係者は、このように話している。
「集まったトップのなかには、六代目山口組寄りだったある有力組織から処分を受け、神戸山口組サイドとの付き合いを鮮明にした親分らもいた。さらに、白ネクタイを締めていた幹部もいたという目撃情報も広まり、もしかすると秘密裏に盃事をやっていたのではないかという憶測が生まれたからだ」
これまでも神戸山口組では、他組織トップらとの食事会は開催されてきているが、神戸山口組中枢組織・山健組の関連施設で行われることが多かった。しかし、今回は井上組長宅で行われ、さらに盃事時の正装である白ネクタイを締めた幹部が目撃されたということで、何か特別な意味があるのではないかという憶測を呼んだのではないだろうか。しかし、真相は今も薮の中だ。
「人事にしろ行事にしろ、その内容については、神戸山口組の情報管理が徹底されており、外部にはなかなか漏れてこない。先日、総本部長を辞任したとされる正木組長(正木組組長)においても、その後の明確な処遇は聞こえてきていない。六代目、神戸、任侠と3つの山口組が存続するなかで、神戸山口組が一番情報を取りにくいのではないか」(捜査関係者)
全国には、六代目山口組を支持する組織もあれば、分裂後、六代目山口組との関係を断ち切り、神戸山口組支持を鮮明にさせた組織も存在する。分裂騒動は、他の組織も巻き込み、ヤクザ業界全体に影響を及ぼしている。
(文=沖田臥竜/作家)
●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新刊は、元山口組顧問弁護士・山之内幸夫氏との共著『山口組の「光と影」』(サイゾー)。