山下泰裕が後任候補筆頭となった理由
当の渡辺氏は、「週刊新潮」(新潮社)の取材に対して、自身が中国製メーカーを推薦したことを否定しているが、体操協会関係者は異を唱える。
「もともと渡辺氏は、イオンから巨額のバックアップを受けて成り上がっていった人物。正直、実績に関しては大きなものはないですが、資金力と狡猾さでFIGの会長まで登りつめたといえます。IOC委員選任選挙の資金や戦略についても、アメリカや中国との関係性を重視し、その資金力でアフリカなどの後進国からの票を得ていました。しかし、去年の世界選手権で世界中のナショナルチームや協会から批判が集まり、手のひらを返したようにタイシャンとの関係を否定したことで、ひとまず事態は収まりました。最大の問題は、彼がアスリートファーストではなく、保身のためにこういった選択をしてきたという悪評が、体操界全体に知れ渡っていることでしょう」
IOC委員に名前を連ねる2名のスキャンダルや悪評が広まれば、東京五輪のイメージダウンは深刻なものになる可能性もある。事態を重くみたJOCが最優先したのは、実績より国内外の知名度と潔癖性だったのかもしれない。その結果、大きなスキャンダルもなく、国民栄誉賞受賞者である山下泰裕・全日本柔道連盟会長の名前が最右翼に上がるのは極めて自然な流れでもある。先出のJOC関係者は、こう明かす。
「おそらく今のJOCの上層部の中で、山下氏以上にイメージ回復の適任者はいないでしょう。国民栄誉賞受賞という実績は国民からのイメージ改善に大きな武器となりますし、何より海外からの知名度が圧倒的ですから。一方で、山下氏の新会長就任に反対する派閥があるのも現実です。すんなり新会長決定という流れにはならないかもしれませんね」
竹田氏の退任に伴う“玉突き人事”が、東京五輪にさらなる悪影響を及ばさないことを願うばかりである。
(文=中村俊明/スポーツジャーナリスト)