3月26日夜。業界関係者のみならず、捜査関係者までもが突如ざわつき始めた。
「関東地方を拠点に活動する任侠山口組の直参組長らが、27日に品川で盃(盃事/さかずきごと)を執り行うようだ」
この情報に端を発したかのように、そこから深夜にかけ、さまざまな情報が乱れ飛んだ。
「それまで業界関係者の間では、28日が大安であることから、28日の定例会を休止させ、その日を盃事に充てるのではないかと予想されていた。それが、27日の仏滅にやるという情報が駆け巡ったのだ。しかも、正装ではなく私服で集まるようだ、とまで流れていた。最初は、誰かがインターネットに流した誤報が拡散したのではないかとすら思われていたのだが……」(地元関係者)
当サイトでも何度か触れている通り、任侠山口組は創設以来、従来の「親子」という義理で結ばれた縦型の組織ではなく、横並びの親睦会的な組織として、新たなヤクザ像を目指してきたと思われていた。だが、最近になって、従来型の縦型組織に回帰するのではないと囁かれはじめ、「親子」の契を結ぶ、盃事をいよいよ行うようだという噂が立っては消えてきた。それがいよいよ現実になりそうだというのである。
しかし、本来ヤクザ社会での盃事とは、厳粛な儀式とされており、正装が義務付けられ、暦の上でも万事に良い日とされる、大安に執り行われることが多い。ただ必ずしも、そうでなければならないというわけではない。特に兄弟盃などの場合は、刑務所の中でお互いが男として惚れ合い、その場で交わされることも決して少なくないのだ。
兄弟盃で結ばれた、新たなヤクザ組織か
情報が錯綜する中で迎えた27日。前日の噂が現実のもとなり、捜査関係者らも色めく事態に発展することになるのである。
「品川駅近くに直系組長らが集まってきたのだが、どこに集結するのか直前まで掴めなかった。品川駅から少し離れたところにある鰻屋でやるのではないかと予想されていたのだが、まさかカラオケボックスを使うとは考えてもいなかった」(捜査関係者)
これまでも、関西に比べ、関東の業界関係者らのほうが、会合や密談の場としてカラオケ店を利用することが多かった。特に任侠山口組では早い段階から、組事務所の使用を禁止する仮処分の申立をされないよう、その対策としてかブロック会議などを飲食店で行ってきている。ただ、今回は盃事という重大事。本当にそこで執り行われたのか。業界に通じるある関係者は、このように話す。
「今回は、横並びを意味する兄弟盃は執り行われたと聞いている。ただ、さまざまな理由から集まった組長が全員、兄弟の盃を呑んだわけではないようだ。その後、1時間ほどでカラオケボックスを後にした組長らは場所を変え、祝宴ともとれる宴席を設けていたようだ」
またヤクザ事情に詳しいジャーナリストも、前出関係者と同じ内容のことを話している。
「周辺からは、やはり兄弟の盃はあったと聞こえてきています。関東だけではなく、関西でも行うのではないかと同じ日に噂になっていました。流れていた情報では、各ブロックで直参組長同士が盃を行い、各ブロック長が任侠山口組の若頭である池田幸治・四代目真鍋組組長と盃をし、池田組長が組員を代表して、織田絆誠代表と盃をするのではないかという情報もありました。これらはすべて親と子の盃ではなく、兄弟盃だと思われますが、今のところまだ警察当局ですら、真相を掴めていないのではないでしょうか」
いずれにせよ、親子盃がないヤクザ組織を目指すということであれば、これまでのヤクザ社会の概念とは違った方針に変わりはないといえるのではないだろうか。結成当初から常に画期的な組織運営を行い続ける任侠山口組。新たな団結づくりを目的として、盃を取り入れた可能性は高いようだ。
(文=沖田臥竜/作家)
●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新刊は、元山口組顧問弁護士・山之内幸夫氏との共著『山口組の「光と影」』(サイゾー)。