当初、業界関係者の間に囁かれていた噂は、任侠山口組が結成2年を迎えるにあたって、4月中旬に大阪府内で総会を開催するのではないかというものであった。それが時間の経過と共に、ついに任侠山口組・織田絆誠代表をトップとする盃事をやるようだというものに変わっていった。そして、「任侠山口組の中でも、地方を本拠地として活動している、いわゆる遠方勢の直系組織の組長たちが、4月15日の午後10時までに大阪府内入りするようだ」という情報が、関係者間に広まったのであった。
「これまでも、任侠山口組が兵庫県尼崎市内で定例会を開催する際、地方の直参組長たちは開催日の前日に尼崎市内や大阪府内に前乗りしていることがあった。だが、時刻を指定して前乗りさせるようなことはなかったはずだ。それだけに、深夜に盃をやるのではないかと予想されていた」(業界関係者)
その予想が見事に的中したかのように、15日になると、「翌日午前3時に任侠山口組で若頭補佐を務める権藤聡組長率いる三代目鈴秀組本部(大阪府寝屋川市)で、盃事が挙行される」という情報が拡散されていったのである。そこに待ったをかけたのが、ヤクザに対して徹底的な取り締まりで知られる大阪府警であった。
「当局には、大阪府内では意地でも任侠山口組の盃をやらせないという意気込みが感じられました。事実、任意ながらも、任侠山口組サイドに取り調べの要請をするなどしていました。『大阪で下手なことをすれば、どんな容疑をかぶせても引っ張る(逮捕する)』という無言のプレッシャーでしょう。以前に比べれば緩やかになったといいますが、それでも泣く子も黙ると謳われた大阪府警です。現在でも暴力団に対する取り調べのきつさは、全国一ではないでしょうか」(ジャーナリスト)
そんな府警の追及をかわすように、大阪府内に集結していた任侠山口組の直参組長たちが突如向かった先は、これまでの定例会でも開催場所として使用されたことのある長野県上田市の信州会館。任侠山口組舎弟・石澤重長組長率いる石澤組本部である。
「続々と信州会館にやってきた組長らの姿は、ヤクザがこれまでに盃事などで着用する正装ではなくラフなもの。色つきのカッターシャツ姿の組長らも見受けられ、ノーネクタイといった出で立ちだった。そこにも任侠山口組の、他組織と一線を画している運営方針や組織内の空気感が垣間見えるのではないか」(捜査関係者)
16日の午前4時ごろから始まったとみられる盃事は、時間にして40分ほどで終了したようで、直参51名のうち39名が盃を受けたという情報もある。儀式の媒酌人を務めたのは、名媒酌人として知られる任侠山口組直参、二代目清水組・道久誠組長だったようだ。
「道久組長の媒酌ぶりに、織田代表自らが称賛の声を上げる場面があったといわれている。滞りなく盃事が終了し、これまで代表と呼ばれていた織田氏は『組長』となり、今後、組織内では親分と呼ばれることになったと漏れ伝わってきている」(地元関係者)
こうして任侠山口組では、平成最後となる月に盃事を断行し、新たな契が結ばれたようだ。
(文=沖田臥竜/作家)
●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新刊は、元山口組顧問弁護士・山之内幸夫氏との共著『山口組の「光と影」』(サイゾー)。