中国の最高指導者、習近平国家主席の健康不安説が急浮上している。習氏が4月、フランス、イタリア、モナコの欧州3カ国歴訪中、足をやや引きずり気味にして儀仗隊に迎えられ現地を視察したり、マクロン仏大統領との会談では習氏が両腕で椅子を握り自身の体を支えながら着席する様子がテレビのニュース番組で報道されたからだ。
習氏の健康不安説は、これまでも何度か浮上していた。とくに習氏が中国共産党総書記に就任する数カ月前の2012年には、当時のヒラリー・クリントン米国務長官との会談をドタキャンし、2週間ほど公の場に姿を見せなかったことがあり、大きなニュースになった。さらに、暗殺未遂説も何度か報じられており、独裁体制を固めつつある習氏の一挙手一投足に再び注目が集まっている。
米ウォールストリート・ジャーナルによると、今回の習氏の欧州3カ国歴訪では、習氏の顔色が悪く不健康な状態のようにみえたとの指摘が、チャイナウォッチャーらから寄せられていた。これを受け、政治に関心がある中国人や海外の外交筋、中国問題の専門家などの間では、6月で66歳になる習氏をめぐり、ひそかに健康不安説がささやかれ始めた。
臆測は海外の中国系通信社にも波及し、ソーシャルメディア上では捻挫から痛風までさまざまな臆測が飛び交っているという。ある元政治学教授は、中国知識人の間ではソーシャルメディアの非公開チャットルームで「ちょっとした議論」が起こっていると話す。「誰も多くは語らないが、互いに暗黙の理解がある」と指摘。
米ボストン大学のジョゼフ・ヒュースミス教授は12年の習氏の「2週間の不在」について触れ、「習氏が当時、職務遂行が不可能な状況に陥っていたら、党のエリート層は後継について『混乱を極めたプロセス』のなかで再協議する必要があった。この状況は今でも変わらない」と述べている。同紙は中国共産党中央委員会宣伝部や国務院新聞弁公室に対して、欧州訪問時の習氏の健康状態について問い合わせたが、一切返事はないという。
習氏は帰国後、北京で行われた一帯一路国際会議などに出席したり、北京に滞在中だった二階博俊自民党幹事長らと会談を行ったが、その際は足を引きずるなどの様子はなく、顔色も健康そうで、演説などの口調もはっきりとしていており、異常な様子はみえなかった。
しかし同紙によると、コンサルティング会社クランプトン・グループはすでに昨年9月の段階で、顧客向けノートで「習氏が病気か死により突如、権力の座から退いた場合、新指導者の選定プロセスが明確さを欠くことで、エリート層の内部抗争や経済不安定化の可能性を著しく高める」と指摘。そのうえで、「習氏が突然、死亡する、または長く病に伏した場合の緊急対応策を策定する」よう顧客に促したのに加えて、とりわけ中国本土の従業員の安全確保に配慮し、資産の本国環流が困難な状況を想定すべきだと指摘している。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)