中国では、外国企業の商品ブランドを、第三者が商標として「冒認出願」する事案が増加している。冒認商標出願は“抜け駆け商標登録”とも呼ばれ、日本の企業が中国で商標を出願・登録する前に、第三者が自己名義で当該商標を出願・登録してしまうことなどをいう。企業がその被害に遭えば、自らのブランドを商標として使用できないリスク、ブランドイメージの毀損などビジネスに多大な悪影響を及ぼす。
さらに、日本企業が模倣品対策を行おうとする場合、商標出願の事実をその対抗策として悪用するケースもある。また、冒認商標を取り消すためには、多大な時間とコストがかかるが、それでも最終的に商標を取り戻せるとは限らない。
冒認商標出願は、日本企業が事業を行っている商品分野に限らず、日本企業が商標登録していない商品分野での出願、日本の地名や地域ブランドの出願、日本のマンガのキャラクターを利用した出願、中国未進出企業や中小企業の商標の出願などをするケースも増加している。また、出願される商標も、商標を類似といえるかどうかが微妙な態様に変更したり、出願者の悪意を立証することが難しいように、複数者で分担して出願したりするなど手口が巧妙化している。
2012年度の模倣被害調査報告書でも、171社が中国において商標の不正な権利取得の事例があると回答している。例えば、「ヨネックス」「無印良品」及び「MUJI」ブランド、『クレヨンしんちゃん』の商標等があるが、このように製造業・サービス業の幅広い業種に被害が出ている。
こうした冒認商標出願が増加している背景としては、インターネットの普及により、誰でも外国ブランドの情報を簡単に入手できるようになったことや、将来中国に進出しそうな日本のブランドを片っ端から商標出願・登録しておき、先に登録してあることを盾に、商標を高値で買い取らせようとする者が増加していることが挙げられる。その上、冒認商標出願を積極的に手引きする“代理人の存在”が指摘されている。
さらに、中国では日本企業の商号を悪用する事案が急増している。日本企業の名称を含んだ「広州○○有限公司」や「△△化工有限公司」といった商号を登記した上で商売し、日本の本社から授権されていると消費者に誤認させたり、また日本企業の関連会社であると宣伝しながら商売を行う悪質な業者も存在する。日本企業を連想させる商号を無断利用し、日本企業のブランドに“タダ乗り”している。
商品や広告に日本企業の商標を使用していない場合は、一般的には商標権侵害とはならないが、中国の法規上は、他人の著名な商標を企業名称に使用することを禁じており、仮に登記されても当局により是正できるとされている。しかし、現実には、商標と商号のクロス審査制の未整備や各執行当局の審査基準の不一致などにより、多くの日本企業の商標を含む商号の登記がされている。また、一度登記されてしまうと、中国の行政機関には、これを強制的に変更する権限がないこと、商号の登録は各地方政府に属する権限であること等のため、是正を求めるための障害も多く、多くの権利者が被害に苦しんでいるのが現状だ。
インターネット経由の被害が増大
さらに、近年のインターネットの発達により、インターネットを経由した被害が急速に増加しているのも特徴だ。
中国の電子商取引サイトや動画サイトにおいては、多数の模倣品・海賊版が流通している。インターネット取引は、匿名性が高く、侵害者を特定することが困難で、中国では法制度も未整備な状況にあるため、インターネット上の模倣品の氾濫は深刻な問題となっている。11年度に経済産業省が実施した「インターネット上の模倣品流通実態調査」では、中国においてインターネット上で取引されている日本企業の商品の大半が模倣品だった。
中国では、露店やディスカウントストア・量販店などの店舗で、パッケージ形態での海賊版が販売される被害が減少する一方、インターネットオークションサイトで海賊版が販売される被害が急増している。また最近は、インターネット利用者の拡大とともに、違法コンテンツの流通も増加しており、主要都市(北京、上海、広州、重慶)におけるオンライン上の違法な日本コンテンツの入手・視聴件数は年間で約72億件、中国全体のネットユーザーでは512億件という膨大な件数に上ると試算されている。
コンテンツ海外流通促進機構(CODA)では、中国、香港、台湾の取締執行機関と共同で日本のコンテンツの取締活動を実施しており、05年1月から13年2月までの間で、合計1万4169件の摘発を行い、3552名を逮捕、合計で約660万枚の海賊版DVD等を押収した。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)