「名字呼び」「名字+さん付け」か「名前呼び捨て」か――。
中学校、高校の同級生間で、お互いをどう呼ぶのかをめぐって25日、日本国内のTwitter上で「名前呼び捨て」がトレンド入りした。あるTwitterユーザーによる(中学、高校共に)「男女共に初対面から名前呼び捨てが当たり前なんだけど……」という投稿をきっかけに、Twitter上では意見が百出した。自身の学生時代は「名字+さん」だったという声がある一方、「沖縄県では名前呼び」などという意見もあった。
「さん付け」がルール化?学校、地域によって異なる状況
東京都の区立中学校教員は「授業や学校行事など、公の場所では基本的に『名字にさん付け』をするよう指導していますが、課外では自由に呼んでいるというのが実情でしょう。生徒間の仲の良さによっても違うんじゃないでしょうか」と語る。
一方、青森県の県立高校の教員は「ケースバイケースでしょう。学校公式行事の時は、『さん付け』にしています。ただ、教員のいないところでは、自分のことを『ワ』、相手のことを『名前呼び捨て』や『名字呼び捨て』『オメ』などと使っていると思います」と語る。
ここ数年、教育現場では教員が生徒を呼ぶ時などに多様性の観点から「さん付け」に統一したり、学校によっては「いじめ防止」「児童・生徒の人権擁護」の観点から「あだ名」を禁止したりする事が増えているようだ。「あだ名禁止」に関しては2018~19年ごろ、インターネット上で物議を醸したことは記憶に新しい。
では、生徒間での「呼び名」に関する統計的なデータはあるのだろうか。千葉県の県立高校の国語科教員は「もう20年以上前の古いデータではありますが、一つ知っています」と話す。
「姓」と「名」でゆるやかな地域差がある
そのデータとは国立国語研究所が2002年3月31日に発行した報告書『学校の中の敬語 1 アンケート調査編』だ。
同研究所は、日本語の特徴のひとつである「敬語」に焦点を当て、「敬語」を学習する場として、「中学生及び高校生が学校の中で敬語をどのように使用しているか,どのように意識しているか」について調べた。報告書は東京、大阪、山形3地域の中学校と高校を対象に聞き取りを行い、その結果をまとめている。アンケート調査の実施は1989年。現在の50代が中高生だったころだ。そのため、50代くらいのTwitterユーザーは、同報告書に近いイメージを持っているかもしれない。
同報告書では「対称詞(1)一相手の呼び方」の項目で以下のような分析がなされている。原文ママで引用する。
「代名詞について言えば,男子はいずれの地域でも『オマエ』の系列(山形では「オメ」)が優勢であり『キミ』の使用は少ない。一方女子は,いずれの地域でも『アンタ』が優勢である。大阪では『ジブン』,山形では『ワ』の系列といった方言形が,男女いずれもさらに追加されるが,こうした方二形を除く共通語形の使用について言えば,男女いずれも全般的に地域差は大きくない。なお,東京と大阪を比べると,男子の『オマエ』にしても女子の『アンタ』にしても,大阪の方が使用者率が高い(略)。つまり,『オマエ』と『アンタ』の男女差は東京よりも大阪の方がより大きく,対称代名詞の二三の性差がより鮮明であると言える」(同報告書P.70~71、以下同)
「一方非代名詞について言えば,選択肢が異なり地域間の比較がしにくい面があるが,おおよそ次のような傾向が認められる。
それ以外の[同性後輩][同性友人][異性同級]といった相手に対しては,男子は『姓』(特に『姓呼捨て』)が全般的に多い。ただし,〈山形中学〉はむしろ『名』が主体であり,この点地域差が多少認められる。これに対し女子は,さまざまな表現がよく使われ,特定の表現への片寄りがどの地域でも男子ほど大きくないが,やはり〈山形中学〉では『名』に傾く傾向がある。つまり,『姓』対『名』という対比で見た場合,山形は『名』でありそれ以外の地域は『姓』という,ゆるやかな地域差が認められそうだ」
同報告書を踏まえ、前述の千葉県内の高校教員は次のように語った。
「いわゆる標準語や敬語を正しく学ぶことは大切です。戦前は無理やり、各地の方言を標準語に直すような教育も行われていました。しかし、今では『方言は地域の大事な資産』という見方もされるようになっています。アンケート調査が行われていた時代から30年以上が経ち、日本語の使い方も絶えず変化しています。
社会に出た後、『失礼な人』と取られないために、学生時代に丁寧な相手の呼び方に慣れておくのは大切です。一方で、地域やその場の雰囲気によっては『さん付け』が慇懃無礼に取られることもあり得ますよね。
『名前呼び捨て』『さん付け』どちらか一方が正しいということではなく、その場に適した正しい言葉使いをちゃんと選ぶことができる見識を教えるのが我々、教員の務めだと思っています」
(文=Business Journal編集部)