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「連休明けたら要請しようと」なぜ静岡市長は断水後2日間、自衛隊派遣要請せず?

文・構成=Business Journal編集部
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25日に台風15号豪雨災害の現場視察を行う田辺信宏市長(市公式Twitterより)
25日に台風15号豪雨災害の現場視察を行う田辺信宏市長(市公式Twitterより)

 自衛隊の災害派遣要請、誰が、いつ、どのようなタイミングで行うべきなのか――。災害が発生するたびに取り沙汰される議論が、24日に東海地方に大きな豪雨被害を与えた台風15号でまた巻き起こっている。

 東海各県で豪雨被害により土砂崩れや道路の寸断、市街地の浸水被害などが多く発生した。静岡県静岡市清水区では特に断水被害が目立った。同市危機管理総室によると、同市内を流れる興津川の取水口に流木が詰まり、取水障がいが発生したことなどにより約6万3000戸が断水したのだという。住民らはTwitterなどSNS上で給水車に並ぶ長い列や写真を次々にアップし窮状を訴えている。

 静岡県は24日午後2時の段階で、静岡市を含む23市町に対する災害救助法の適用を決定した。断水に対しても近隣の自治体に給水車の派遣要請を行うなどしていたが、自衛隊の派遣要請は行われず、静岡市の住民などから疑問の声が上がっていた。そして26日午前午前10時25分、静岡県は自衛隊に災害派遣要請を行った。

静岡市長、自衛隊派遣要請「25日の現場視察で決めた」

 自衛隊派遣要請は静岡市の田辺信宏市長が26日、静岡県に打診し、正式に要請することになった。なぜ、発災から2日も経過してから、自衛隊派遣要請をすることになったのか。自衛隊派遣要請の決め手になったのは、上記Twitterの投稿にもある「田辺市長による被害現場の視察」だったという。だが、現場視察はなぜ25日まで行われなかったのか。

 また災害情報を発信し続けている市危機管理総室の公式Twitterや公式サイト上に市長からのコメントも当初は一切なかったのはなぜか。26日午前11時に開かれた記者会見で、田辺市長には以上のような厳しい質問が相次いだ。

 自衛隊の派遣要請の遅れについて、田辺市長は以下のように説明した。

「一昨日の災害対策本部の時からその話(自衛隊の派遣要請)はあったんですけれども、昨日、私も現場を視察しましてこれはもう、週明け、連休明けたら県に要請しようと本部会議での決定となりました」

 この回答に対し、記者は「もう少し早く出す判断はなかったのか」と再質問。田辺市長は「まず何を支援要請をするのか、具体的な中身を固めなければいけない。総合的に協議をし、ふたつの柱、一つは取水口の復旧支援、もう一つは孤立集落の解消を県に対して要請することになったということです」と語った。

24日は市長室に籠る?「そういう1日が必要だった」

 また、自衛隊派遣要請の「決め手」になった現場視察が25日だったことについて、田辺市長は次のように語った。

「市長室で陣頭指揮にあたっていた。総合的な被災状況を確認して、どこが一番重大か各局で議論していただいて、視察にいったということでご理解いただきたい」

 現場視察の他、市民に対する市長からのメッセージがなかったことについて、メディア側からは「岐阜市長は土曜日の段階で静岡市への支援を表明していた。田辺市長はすぐにご自身によるメッセージ発信をされなかったのか」との関連質問も出た。それに対し、田辺市長は次のような見解を述べた。

「危機管理はいろんな手法があると思います。まずは全体状況を把握する時に、私は市長でありますので、私がやはり常に市長室にいて、全体の状況を把握することがまずは第一だ。(危機管理担当から、各局からの情報を収集する)そういう一日が必要だったんです。それから、よしここに行こうと。最初から慌てて現場を見るということではないということです。市民の皆さんがメッセージを欲しがっていると。そのためには現場視察が一番ですよ。というような結論になり、昨日(25日)行ってきたわけです。」

「(SNSで一言メッセージを出すことも難しかったのか?と問われ)、はぁ(おおきなため息をつき)、ホームページでもやっておるけれど、とにかく昨日SNSにメッセージを出しました。……(おとといはできなった?との再質問に対し、8秒ほど沈黙し)それが遅かったということですか? 何も出していないわけではありません。メディアを通じて届かなったということがあったかと思います。これから、メッセージを出していきます」

 災害時の自衛隊派遣は必ずしも県知事が要請を行う必要はない。現行の法制度下では、都道府県知事などによるの派遣要請(一般派遣)、もしくは自衛隊各部隊の責任者の判断で部隊を現地に向かわせること(自主派遣)の2つがある。

 2019年の台風19号時には、神奈川県の給水車が自衛隊の自主派遣の給水車と被災地でバッティングし、混乱する事態が生じた。当時の状況と、災害時における自衛隊派遣に関し「大災害時における自治体と自衛隊の連携体制の確立に関する研究会」代表を務めた明治大学政治経済学部地域行政学科長の牛山久仁彦教授(行政学・地方自治論)に聞いた記事『検証:なぜ自衛隊は給水せず帰ったのか?自治体間で隊の取り合い、国と県が競合…』を以下、再掲する(記事の人物や事物の記載は2019年11月当時)。

検証:なぜ自衛隊は給水せず帰ったのか?

 日本列島に甚大な被害をもたらした台風19号。自衛隊への救援要請をめぐり、各地で市町村や県の対応が物議を醸している。神奈川県山北町では、同町が静岡県駒門駐屯地の部隊と直接連絡を取った。自衛隊は災害時の自主派遣の3要目を踏まえて、同駐屯地から給水部隊が現場に急行したものの、県独自の給水車派遣の手続きと重なり、現場は混乱。自衛隊は給水せずに引き返すことになった。

福島県でも「自衛隊の取り合い」

 阿武隈川などの決壊によって、死者24人の被害が出た福島県内でも「自衛隊の取り合い」をめぐり、市町村間で不満が噴出している。同県関係者によると、伊達市梁川町では過去最大規模の床上浸水が発生。多くの住民が水浸しの市街地で孤立する被害が発生した。だが、同市は、自衛隊の派遣を要請しようとして県への通報に時間がかかってしまった。一方、同県庁でも各地から自衛隊の出動要請が殺到し、混乱。伊達市からの要請が正式に受託されたときには、最寄りの福島駐屯地(福島市)の大半の部隊は約70㌔東の太平洋沿岸の南相馬市や相馬市に出発した後だった。

 阪神淡路大震災を契機に、自衛隊の災害派遣のあり方は変わった。ここで、もう一度、災害時の自衛隊派遣要請の手順を確認してみる。

「一般派遣」と「自主派遣」

 自衛隊の災害派遣には、都道府県知事の要請による「一般派遣」と、自衛隊が緊急性を考慮して部隊を被災地に派遣する「自主派遣」の2つがある。自衛隊ホームページは自主派遣について次のように説明している。

「市町村長から通知を受けた防衛大臣またはその指定する者は、災害の状況に照らし特に緊急を要し、(都道府県知事からの)要請を待つ余裕がないと認められるときは、部隊などを派遣することができます。

 防衛大臣またはその指定する者は、特に緊急を要し、要請を待ついとまがないと認められるときは、要請がなくても、例外的に部隊などを派遣することができます。

 この自主派遣をより実効性のあるものとするため、平成7年(阪神淡路大震災の年)には防災業務計画を修正し、部隊等の長が自主派遣をする基準を定めました」

 防災業務計画では派遣にあたって次のような基準がある。

1) 関係機関への情報提供のために情報収集を行う必要がある場合

2) 都道府県知事などが要請を行うことができないと認められるときで、直ちに救援の措置をとる必要がある場合

3) 人命救助に関する救援活動の場合など

 通常、大規模災害時には多くの部隊が「自主派遣」のかたちで現場に急行し、後日、都道府県知事から正式な要請文書を受け取り、結果的に「一般派遣」になることが多い。東日本大震災でも、当初自主派遣した自衛隊部隊が数千人の被災者を救助したことは記憶に新しい。

 神奈川県や福島県の例を踏まえ、台風19号から何を学べるのか。東日本大震災の教訓をもとにした「大災害時における自治体と自衛隊の連携体制の確立に関する研究会」代表を務めた明治大学政治経済学部地域行政学科長の牛山久仁彦教授(行政学・地方自治論)に聞いた。

牛山教授の解説

 今回の山北町の件では結局、なぜ自衛隊が給水活動をせずに帰ったのかについての事実関係が、まだわかっていません。具体的な現場の対応も、町役場が県や自衛隊に対して、どういう要請をしたのかも報道等では明確ではありません。ただ、神奈川県や各市町村も災害対応の最中で、まだ検証作業を行う段階ではないのも事実です。未だ行方不明者の捜索や復旧への努力が行われている状況で、災害は現在進行形で続いています。検証には時間がかかってもやむをえないところです。

 そうした中、現時点で考えてみると、山北町への自衛隊の派遣は法的な枠組から見れば可能だと思います。自衛隊が町長の情報提供をもとに自主派遣したということで、法的問題はありませんでした。阪神淡路大震災の教訓を踏まえ、自衛隊は自ら現地で判断して出動することができることになっています。

 話が複雑になったポイントは、国(自衛隊)と県の支援の両方が競合したところです。自衛隊にしてみれば山北町との関係では自主派遣と捉えられる事例だと考えます。給水という業務は公共性が高く、台風による断水は緊急事態であり、水を切らさないことは飲用のみならず医療や福祉、衛生と幅広い人命救助の観点からも重要です。問題は、派遣のもうひとつの要件になる非代替性です。自衛隊として悩ましいのは、自衛隊が出る以外に代替性があるかどうかということでしょう。県の給水車で足りるということになれば自衛隊に出動の必要はなくなるのですが、水を必要とする住民の緊急性に鑑みて自衛隊でなければ即時に対応できないと判断すれば、出動すべきであるということになります。これに加えて、「県の要請による出動」という通常の対応を整えるために、町が県に「自衛隊出動の知事の要請」を行う手続きを求めたことで問題が複雑になりました。

 私たちの研究プロジェクト(「大規模災害時における自治体と自衛隊の連携に関する研究」)で議論した際も、こうした国・県・市町村の連絡体制や要請のあり方についての整理が十分でなかったことや、今後の市町村と自衛隊の連携のあり方が課題になっていました。14年 2月の豪雪被害の際、埼玉県で市町村が県に自衛隊の派遣要請を行いましたが、県は「除雪のための派遣要請はできない」と要請を行わず、救助活動が遅れたのではないかということが話題になったこともありました。

 今後は、県に加えて市町村と自衛隊の関係も整理される必要があります。相次ぐ激甚災害への対応をふまえ、「緊急時に県知事の要請がなくても自衛隊が出動できる」というところまで制度面の整備は進みましたが、さらに、実施面で多くの課題が残っています。

 市町村内に自衛隊の駐屯地のある自治体の場合などでは、相互の連携がうまくいくケースが見られます。日ごろから自治体関係者が自衛隊の行事に参加したり、自衛隊OBが災害担当の自治体職員として採用されていたりして、公私を超えて関係が構築できているからです。山北町のケースは県境もまたいでいました。これが静岡県と同県内の市町村と駐屯地という関係であればまた違う状況もあったかもしれません。

 また台風15号で広範囲かつ長時間の停電が発生した千葉県の事例もそうです。森田健作知事による自衛隊への派遣要請が遅れたという指摘もありましたが、一方で、被災地の状況を把握して自衛隊が自主派遣として出動すればよかったという指摘もあります。しかし、今まで大災害の経験があまりない房総半島の現場の自治体が、普段連携のない自衛隊とうまく連絡をとりあって対応できたのかという疑問も残ります。

 自衛隊も被災地の状況をつぶさに把握しているわけではありません。限られた装備と人員で自衛隊も任務を遂行しており、偵察部隊を被災地全域に展開することも現実的ではないといえます。

 大規模災害で、救急救命でいうところのトリアージに似た判断を、どこの誰が行うのか。被害情報の共有を国、自衛隊、都道府県、市町村の間でどのように行うのか。情報共有と連携の枠組みをもう一度、整備する必要があります。

 地方分権改革が進み、政府が中央集権的に情報収集や指揮管理を行う災害対応に加え、それぞれの自治体が主体的に防災に取り組む姿勢が求められています。南海トラフ地震や首都直下地震が発生することを考えると、まだまだ現状の体制では不安は大きいです。次の激甚災害まで、準備の時間は多くはありません。自治体や自衛隊は、こうした連携体制のあり方について喫緊の課題として取り組むべきだと思います。

(文・構成=Business Journal編集部)

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