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木村誠「20年代、大学新時代」

定員割れの私立大学が過去最多に…大学間格差が拡大、上智大や立教大は増員で攻勢

文=木村誠/大学教育ジャーナリスト
上智大学1号館(「Wikipedia」より)
上智大学1号館(「Wikipedia」より)

 毎年9月に公表される日本私立学校振興・共済事業団の私立大学志願者動向調査によると、2022年春の入学者が定員割れした私大の比率は47.5%(284校)で、2021年より7校増えた。半面、全私大の入学定員充足率(入学者/入学定員)は2021年に99.8%と100%を切ったが、2022年は100.8%と回復した。

 私大全体(598校)の入学定員49万8019人に対して、入学者が50万2199人と、4180人オーバーしたのである。これは、合格者が150万8201人と、前年より7万0292人も増えたからである。受験者数は2万0844人も減っているので、合格率が高くなった。

 ある大学が入学定員より入学者が数名少ないからといって、別に問題があるように思えない。ただ、私大は入学金や授業料が収入の6割前後を占めるほど学生納入金依存度が高い収入構成になっているので、欠員が何十名単位になると影響が出てくる。そのまま、定員未充足状態が続くと、国および地方公共団体からの私学助成も減額などの可能性もある。そうなると、大きな収入減に直結するのだ。

 ただ、収入減よりもっと怖いのは受験生からの評価だ。入学者が定員に達していない状態が続くと、誰でも入れる、いわゆるFランク(低偏差値で誰でも入れる大学)という“烙印”を押されてしまう。

 実際には志願倍率が比較的高くても、ある程度合格者を絞り、入学者の学力を担保するという方針のもと、結果的に定員割れを起こすケースもあり、それは「定員割れFランク」ではない。

 それでも、定員割れによるイメージダウンを避けるため、どうしても入学者を確保できない地方の私大の中には「入学者/入学定員」の分母にあたる入学定員を小さくして、充足率を人為的に上げる例も出ている。入学定員を減らしても教育水準を維持できれば、むしろ少人数教育となるので、社会的には問題にならないからだ。

大学にも「大格差時代」到来か

 同調査での問題点は、大学の規模によって入学定員充足率に大きな差が生まれ、その格差が広がっていることだ。入学定員が100人未満の超ミニ大学(38校)は入学定員充足率が82%と前年より5ポイントのダウン、100~200人未満の108校も90%と、前年より5ポイントのダウンになっている。一方で、3000人以上の大規模校(25校)は104%と、前年より4ポイントも上がっている。大学にも大格差時代がやってきた、と言えるのだ。

 この背景には、新自由主義のもと、潰れる大学は自己責任、という論調がある。しかし、この論点は、大学の地域における役割を軽視している。

 同調査によると、地域の差が大きいのだ。この5年間、3大都市圏(埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・京都・大阪・兵庫)の大学の入学定員充足率は100%を上回り、2022年は102.06%であった。ところが、3大都市圏以外では北海道・宮城・福岡などを除き、2年続けて100%割れの県が多い。宮城を除く東北圏、甲信越、北陸、愛知を除く東海圏、京都・大阪・兵庫を除く近畿圏、中国・四国圏、福岡を除く九州圏などだ。

 だいたいの構図としては、大きな有名私大のない地方が苦戦しているという傾向である。優勝劣敗の新自由主義は3大都市圏では通用するかもしれないが、地方では国公立大と中小私大の対決となり、ハンデがありすぎる。また、医療系・教員養成系や工学・農学などのウエイトが高い地方国立大志望の共通テスト受験組はともかく、志望の学部学科が違う地方の高校生にとっては、地方私大の存在は大きな意味がある。むしろ地元に残って地域振興の力になりたいという高校生にとって、魅力ある地方私大へと存在価値を高めていくべきだろう。

 数年続けて定員割れの私大が近くに複数ある場合は、その地方の18歳人口の減少という地域的な要因もあるだろう。また、個別の大学では、受験生の志望にマッチしなくなったことによる学部変革が必要であると認識されつつも、財政的なゆとりがないなど、さまざまな要因が考えられる。まさに地方私大の再生は地域振興の必要条件となっている。

上智大らは定員増で攻勢へ

 首都圏の大学は、拡大路線で存在価値を高めようとしている。文部科学省が2022年8月に公表した「令和5年度からの私立大学等の収容定員の増加等に係る学則変更一覧」によると、21校の変更予定があった。この収容定員が注目のポイントだ。

 文科省は都市部の大規模校への学生の偏在を避けようと、2016年度から定員超過の私大への補助金交付を厳格化している。その影響で、2020年度までは小規模校や地方の定員割れが一定は改善した。ところが、2021年度は新型コロナウイルスによるインバウンド留学生の減少などを背景に定員割れのケースが急増し、2022年度はさらに7校増えて過去最高となった。定員厳格化の影響が徐々に薄まって都市部の大規模校に入学者が集まったことなどから、小規模校や地方で定員割れが広がった可能性がある。

 今まで、東京都の私大の定員超過に対して私学助成の減額などのペナルティを課す文科省の厳格化路線の基準は、入学定員であった。そのため、私大は定員を厳守するために、一定の入学手続き率を想定しつつ合格者数を絞り込んだ。その結果、入学手続き率が想定より低くて、大量の追加合格者を出した大学も多かった。2021年度の入試では、特に上智大学が話題になった。

 ところが、これらの追加合格問題もあって、文科省は定員厳格化路線の基準を入学定員から収容定員に変更することにした。学部ごとの入学定員より全学的な収容定員の方が、余裕のある数値になる。そこで、条件を満たすように収容定員の学則を変更して、増員を図る大学が出てきたのであろう。

 これによって、実質的に入学定員が増加した人数が30名以上の大学は、北から開智国際大学(千葉県柏市/70名)、上智大学(東京都/40名)、杉野服飾大学(東京都/40名)、東洋大学(群馬県板倉町・東京都/50名)、明治薬科大学(東京都/60名)、立教大学(埼玉県新座市/162名)、関東学院大学(神奈川県横浜市/75名)、洗足学園音楽大学(神奈川県川崎市/60名)、中部大学(愛知県春日井市/40名)、大手前大学(兵庫県西宮市/110名)、兵庫大学(兵庫県加古川市/50名)、立命館アジア太平洋大学(大分県別府市/150名)などとなっている。

 なお、上記のうち、上智大、杉野服飾大、東洋大には、「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律」に基づく、特定地域学部収容定員増抑制の除外規定の適用による特例――という備考がついている。

 上智大は理工学部の増員が目立ち、グローバリズム時代の理工系学部として期待されている。東洋大は、福祉社会デザイン学部と健康スポーツ科学部のキャンパス再編を伴う新設による定員増であろう。立教大は、スポーツウエルネス学部の学科からの昇格による新設の定員増であろう。

 地方私大として意欲的なのは立命館アジア太平洋大で、サスティナビリティ観光学部の新設による影響であろう。同大には留学生も多く、どのような実践的な学びになるのか期待が集まっている。

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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