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木村誠「20年代、大学新時代」

私立大学の46%が入学定員割れに…私大の“連続倒産時代”は本当に来るのか?

文=木村誠/教育ジャーナリスト
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愛国学園大学(「Wikipedia」より)

 この9月に公表された日本私立学校振興・共済事業団の私立大学志願者動向調査によると、入学定員割れの私大が277校で全体の46%に達した。日本全国の私大の半数弱が、入学定員を充足できなかったということになる。

 また、私大全体(597校)の入学定員49万5162人に対して、入学者が49万4213人と929人の欠員が出た。全私大入学定員充足率(入学者/入学定員)が99.81%と100%を切ったのは、同事業団が調査を開始してから初めてである。

 別に入学定員より入学者が少ないからといって何が問題なのか、という見方もある。私大は入学金や授業料が収入の6割前後を占めるという学生納入金依存度が高い収入構成になっており、ほかに国および地方公共団体からの私学助成などもあるが、それらはわずかである。だから定員割れになると学生からの学費納入金が減り、収入減に直結する。

 しかし、収入が減ったからといって、企業のようにリストラには走れない。教員が減り、設備投資をカットすれば、教育水準が維持できないからである。収入減に見合った大学教育を続ければ、進路指導をする高校教師や高校生の保護者からの評価は下がり、受験生離れを誘発し、さらに入学希望者が減って学費納入金(収入)が減る、という悪循環に陥る。

 ただし、この入学定員充足率が大学の実力を比べる決定的な評価基準というわけではない。大学にとって入学者は「お客さん」のようなものであるから、恣意的に増加させることはできないが、基本的に入学定員は大学自身が決められる。減らすのは文部科学省の認可もいらず、比較的自由にできる。

 だから、どうしても入学者を確保できない地方の私大の中には「入学者/入学定員」の分母にあたる入学定員を小さくして、充足率を人為的に上げる例も出てきた。これは結局、大学規模を小さくすることであるから、私は「大学のスモール化」と呼んでいる。

 逆に、入学者が入学定員を大幅に超過していた大都市圏の私大では、分母を増やして超過率を下げるために、文科省に対して入学定員の増員を要請した。法的基準内なら増員を認めざるを得ないケースも出てきた。大幅超過の私大には補助金不交付や新学部などの認可申請などで不利になるので、超過率を下げるため、収入減につながる入学者数抑制より、入学定員を増やす作戦に出たのだ。

 このように入学定員充足率は、入学者はともかく入学定員は人為的なものなので、定員割れの数字だけでその大学を評価することはできない。たとえば、福島県の奥羽大学は薬学部の収容定員を中心に数年間で増減させている。大学経営の判断で、文科省の基準に合いさえすれば調整可能なのである。

 ただし、数年続けて定員割れの私大が近くに複数ある場合は、その地方の18歳人口の減少という地域的な要因もあるだろう。また、個別の大学では受験生の志望にマッチしなくなったことによる学部変革が必要と認識されつつも、その財政的なゆとりがないなど、さまざまな要因が考えられる。

看護など医療系学部は定員割れが少ない

 入学定員充足率は90%台で、たまたまその年だけ100%を切ったようなケースでは、合格者のうちどの程度入学するかという入学手続き率の読みを誤って欠員が生じることもあり、基本的に問題ない。

 ただし、数年間、入学定員率が80%を切ると1~4年間の収容定員充足率も低くなり、その結果、学費納入金も少なくなるので大学財政の収支が悪化する。存続するために「大学のスモール化」をして教育関係の支出を減らせば、教育力の低下を引き起こして受験生離れを生み、最終的に消滅しかねない。しかし、大学数が少ない地方では、大学の存続が地域の活性化に必要な条件になっていることも多い。

 恒常的に定員割れしているような私大は、典型的ないわゆる「Fランク」で、誰でも入れる偏差値の低い大学という誤解もある。本来は河合塾の「入試難易度一覧」で35の最低偏差値にも満たない大学をFランクと区分けしたにすぎなかったが、語句がネットなどで独り歩きして「誰でも入れる大学」だから「フリー」というふうに誤解が生まれた。

 それなら志願者と合格者はほぼ同じということになるはずであるが、個々の定員割れの私大を見ると、全学部の志願倍率が1.0を切ることは少ない。倍率が1.5~2.0倍前後と比較的高い学部が多く、やはり看護系などが目立つ。

 たとえば東京・八王子の東京純心大学などは、首都圏でありながら都心から遠く、立地もイマイチなこともあって、全学的には定員割れが続いている。しかし、看護系学部は比較的競争率も高く、入学定員充足率も高い。地方でも長野市郊外の清泉女学院大学などは、2019年新設の看護学部が、本部と異なる長野駅前のキャンパスという立地条件もあって志願者数も多い。

 看護師は国家試験に合格すれば、どの学校を出たかよりスキルやコミュニケーション能力が重視される職業で、地域社会からのニーズも高い。最近は男子受験生が増えている大学もある。

地方貢献の実績で志願者を集める地方私大

 また、以前は定員割れだったが、地域貢献で受験生の認知が広がり、志願者が回復した例もある。有名な例は共愛学園前橋国際大学だ。1999年に短大から改組・共学化してスタート。ミッション系で特待生制度が充実しており、2010年度から全学生と教職員にアップルのiPod touchを配布するなど、その先駆的な試みが注目された。

 特に全国で名を知られるようになったのは、その地域貢献活動だ。数年前に「地(知)の拠点整備」COC+のプロジェクト(地方創生の中心となる「ひと」の地方への集積が目的)で、私大では東北学院大学と並んで共愛学園前橋国際大学の取り組み「めぶく。プラットフォーム前橋」が、最終評価で最高ランクであった。地元自治体の要求に応え、参加する地元企業の数も多い。ちなみに最高のSランクは42大学中の12大学で、ほかの10大学は地方の有力国立大学である。朝日新聞出版「大学ランキング」の「全国の学長が教育面で評価する大学」で、同大は全大学の中から4位に選ばれた。

 また、松本大学は、地元に密着したアウトキャンパススタディで注目され、受験生を集めている。たとえば観光ホスピタリティ学科では、昨今のインバウンドブーム以前から、地元の松本城を訪れた外国人の観光客に英語で観光ガイドをする活動をしてきた。そのためには英語力だけでなく、地元の歴史や文化の知識を身につけなくてはならない。彼ら彼女らが卒業して、地元の観光産業の担い手になることが期待された。創立の理念に「地域貢献」をうたい、長野県と防災や健康づくりで包括連携協定を締結するなど、具体的な活動が可視化されて、定員割れを起こさず、受験生の人気をキープしている。

 九州で定員割れの常連校であった長崎ウエスレヤン大学は、2021年に鎮西学院大学と改称し、政治学者の姜尚中氏が学長に就任した。姜氏は「地域貢献型の大学として九州のフロントランナーとなり、グローバルな世界に羽ばたく人材を育てたい」と抱負を述べた。

 地方私大にとっては、まさに「地域貢献」がキーワードなのだ。

新型コロナ禍で定員割れ私大が増加するわけ

 定員割れの私大が増加した原因のひとつに、コロナ禍がある。というのも、日本人志願者の減少を海外からの外国人留学生(以下、留学生)で補充してきた私大が、少なからずあるからだ。

 千葉県四街道市の愛国学園大学の入学者は、中国・武漢市で新型コロナウイルスが発生する前の2017年119人、2018年97人、2019年は59人だったのに、2020年45人、2021年21人と激減。その結果、2017年の在籍者数210人から2021年は143人に減り、現在の収容定員充足率(在籍者数/収容定員400人)は35.8%である。在籍者数のうち留学生が121人もいる。

 ほかの私大でもコロナ禍で留学生の移動問題がからみ、学生の確保に苦しんでいるところが多い。しかし、その点を数字的に明らかにしない大学がほとんどなので、全体的な動向もはっきりしない。

 また、入学定員充足率は80~90%を確保しても、中退率が高いと収容定員充足率は低くなる。経済格差の拡大で中退率が高くなる大学も少なくない。特に学生数1000人未満の小規模私大は、平均して10%前後と退学率が高い。留学生の中退率の高さを指摘する意見もある。コロナ禍で動きが止まった留学生と、低くない中退率の問題も、定員割れ私大の増加に内在化する問題として、しっかりと認識しておく必要がある。

 コロナ禍を体験した今だからこそ、安全が確保できれば「できる限り早く多くの外国人留学生を地方の大学に迎えて、地域社会とコラボレーションして地域創生につなげる」方針を実現すべきであろう。

(文=木村誠/教育ジャーナリスト)

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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