国立大学協会では、一般入試以外の選抜方式である学校推薦型選抜(以下、学校推薦型)や総合型選抜(以下、総合型)などの募集定員を全体の3割まで増やすことを目標としている。
学校推薦型や総合型は、受験生の学力の評価判定を筆記試験重視に偏らず、思考力や判断力を重視する傾向にある。これは2020年からの新制度入試の方針とも合う。また、自主研究、クラブやボランティアなどの高校での活動歴も含めて、総合的、多面的に評価する。その意味で、小論文は国公立大学の学校推薦型や総合型にマッチしており、今後は増加していくであろう。
5年前の16年度は、東京大学の推薦(現・学校推薦型)が話題を呼んだ。センター試験の成績条件が非常に高く、これなら一般入試でも合格できる、という声もあった。最近は合格者数も増えている。
科学オリンピックをはじめとした全国レベルの大会・コンクールや語学の資格・検定試験の高成績者など、学部によって推薦要件が指定されている。各学部とも面接を課しているが、中でも文学部は異色である。来年の22年度学校推薦型の場合、出願時に高校の「総合的な学習の時間」などで学んだことをもとに論文を提出させ、さらに選考では1日目に小論文、2日目に面接としている。表現力重視なのがわかる。
京都大学の特色入試は、学部によって、大まかに言うと「学力型AO」型、「推薦」型、「後期日程」型に分かれる。文・法・経済・薬の各学部ほか、農などの一部学科で論文試験(小論文)を課す。一般選抜でも経済学部の後期の代わりに課す論文試験は有名だ。2時間半にわたり、長い論文を読んで論述するヘビー級の内容だからだ。
大阪大学は、能力、意欲、適性を多面的・総合的に評価する「世界適塾入試」を実施。「世界適塾AO入試」「世界適塾推薦入試」「国際科学オリンピックAO入試」がある。学部ごとに異なるが、21年度に小論文を課したのは、文・人間科学、外国語、医学医学科、医学部保健学科、薬学部である。親切にも大学のホームぺージで解答例や出題の意図を公表しているが、課題文自体は著作権の関係で8月下旬の段階では掲載されていない。
他にも東北大学が、学校推薦型や総合型のほか、国際バカロレア入試とグローバル入試を課す。総合型は、テストを課さないAO入試II期は文学部・教育学部・法学部・理学部・医学部(医学科)・医学部(保健学科)・歯学部・工学部・農学部で、共通テストを課すAO入試III期は全学部で実施する。
もちろん、その他の国立大学でも学校推薦型や総合型を導入しており、進学設計の重要な針路となっている。その選抜方式で多く採用されている小論文の傾向と対策がポイントとなってくる。
2021年入試に見る、小論文の出題傾向
21年度国公立大学の学校推薦型・総合型で課される小論文では、多くの大学がコロナ禍を取り上げている。22年入試では、出題の内容が決まる夏から秋にかけて感染状況が深刻化しているので、より広い視点から国際社会の動きなども踏まえた出題がありそうだ。
特に医療や福祉に関わる学部・学科では受験生の医療や看護に対する考え方を問うのに最適であると考えられるため、コロナ禍を小論文のテーマにするケースが少なくなかった。
山梨大学医学部看護学科では、パンデミックが発生した社会の情報の伝達にについて、100年前のスペイン風邪の当時と現在を比べ、SNSなど情報伝達力は約150万倍にもなっているという資料をもとに論じさせた。
大阪府立大学地域保健学域教育福祉学類の総合型では、コロナ禍によって孤立防止や介護予防のための交流が危機に瀕している現状の記事や社会的ストレスが強くなっているという英文コラムを読ませて、福祉と人々のつながりへの危機意識を問うている。
横浜国立大学都市科学部都市社会共生学科の総合型は、「不要不急」という表現や「新たな行動様式」を論じる、いかにも都市社会共生学科らしいテーマだ。
熊本県立大学環境共生学部の居住環境学専攻の学校推薦型では、アメリカの調査結果を踏まえ、日本における都心からの脱出、郊外や地方への移住が取り上げられた。
同じコロナ禍を取り上げた問題でも専攻によって問題意識が違うのが、小論文らしい出題傾向と言えるであろう。
私大入試でも増えている小論文
もちろん、小論文は国立大学だけでなく私立大学でも採用されている。日本で初めてAO入試を導入した慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の総合政策学部と環境情報学部は、一般選抜でも本格的な論文試験がある。外国語や数学、情報からの選択1教科と論文の配点が各200点だからだ。
総合政策学部の21年入試では保育問題を取り上げ、設問4で、現状の理解、問題点の把握、問題解決までの論点を問うている。22年は、30年までの世界目標「SDGs(Sustainable Development Goals)」が大きく取り上げられるかもしれない。総合政策学部向きのテーマと考えられる。
青山学院大学文学部の英米文学科の推薦入試では、時に英文の設問に英語で答える英語小論文を書かせる。
ただし、大規模な私大は志願者数が多く、短期間で行う採点作業への対応が困難な小論文は避けられる傾向にある。慶大のように積極的に導入するケースはまだ少ないが、総合型が増えてくれば小論文を課す大学も増加するだろう。
小論文指導で国公立大の合格実績を伸ばす高校も
SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の課題研究を論文指導に生かす福井県の藤島高校など、地方のトップクラスの進学校では、独自に小論文対策を講じる事例も少なくない。東大推薦入学で合格実績のある山形東高校も論文対策に力を入れている。
今まで進学実績のある高校だけではない。ほぼ進学実績がなかったのに、国立大推薦入試向けの小論文指導が功を奏し、近年は20名近い合格者を出すようになった商業高校もある。私立の福岡女子商業高校だ。若手国語教諭による徹底した小論文指導の成果である。
このように国立大学の学校推薦型や総合型が増加し、国立大学協会の目標である募集定員の3割を突破すれば、地方の非進学高校にも希望が生まれる。その意味で、小論文指導は高校や予備校の進学指導において生徒の進路の多様性を広げる手立てとなる可能性がある。
(文=木村誠/教育ジャーナリスト)