時代の動きに合わせて新学部をつくるのが大学の習性だが、その時代のとらえ方もいろいろある。グローバリズムの進展は国際教養学部を生み、情報のデジタル化がデータサイエンス学部を生んだ。ともに時代の流れを読んだものであるが、国際教養学部は秋田県の公立大である国際教養大学と早稲田大学の国際教養学部の人気が呼び水になったのに対し、データサイエンス学部は国立大の滋賀大学がパイオニアとなって、先鞭をつけた。
国立大では、千葉大学が初めて国際教養学部を設けた。私立大の愛知県の南山大学も2017年に新設。同系統学部のほとんどが英語による授業と全員海外留学が原則で、グローバル人材の育成を主眼とする。コロナ禍で留学の可否がネックになっているが、人気は落ちていない。
一方、データサイエンス学部は滋賀大、横浜市立大学、武蔵野大学に続き、今春、立正大学が開設し、2023年には京都女子大学が新設を予定している。また、国立の一橋大学も新学部を構想中である。データサイエンスといっても体系的な学問として確立しているわけではないので、必ずしも数理系のデータ処理ばかりでなく、社会科学系をメインにするなど、各大学で個性的なアプローチになっているようだ。
存在感を高める国際日本学部
大学受験の学部選択で「国際機関の仕事をしたいのですが、国際分野の日本人ということで、国際日本学部が良いのですか?」という高校生がいた、と聞いたことがある。あながち間違いではないかもしれないが、たとえば国際公務員に進出した実績といえば、これから期待したいというところであろう。
明治大学に2008年に「日本と世界をつなぐ力」を育む学部として国際日本学部ができたとき、JR中野駅近くの高層ビルのキャンパスには驚いたが、正直「何を学ぶのであろうか」という疑問符がぬぐいきれなかった。国際教養学部のほうはリベラルアーツということで、まだ予備知識があった。
明治大国際日本学部は海外からの留学生の比率が20%で、その日本語教育にも力を注ぐ。2004年スタートの早稲田大国際教養学部が留学生比率30%だから、似た構成だ。日本人学生への英語教育に力を注いでいるが、国際教養学部のように原則英語授業ではない。国際日本学専門科目は日本の産業・社会・文化の特質を深く知り、世界の文化・思想と国際関係を幅広く学ぶことを目的としているので、日本語授業でないと高度な専門性が保てないからであろう。2019年には、国立の東京外国語大学にも国際日本学部が生まれた。
2020年4月に新設された神奈川大学国際日本学部は、外国語学部国際文化交流学科が母体である。もともと交換留学生が多く、ポストコロナ期には海外からの留学生が増加するだろう。日本文化学科と歴史民俗学科の2学科が加わり、横浜市のみなとみらいキャンパスは眺望も抜群で、楽しいキャンパスライフが期待できそうだ。
また、西日本でも兵庫県の大手前大学が総合文化学部を国際日本学部に改組する(2022年4月から)など、国際日本学部もスタンダードになりつつある。
国立の女子大2校が工学部を新設
近未来に新設予定の学部では、何といっても奈良女子大学の工学部(2022年4月)と、お茶の水女子大学の共創工学部(2023年度予定)が欠かせない。全国に2つしかない国立の女子大が女子大初となる工学部を続けて新設するというのだから、ビッグニュースである。
その背景には、今までのモノづくり中心のハード系工学部から、情報や生活科学などソフト系工学部への大きな転換期にあるという視点がある。産業革命から始まる伝統的工学は、発達する都市のインフラ(社会基盤)を整備するため、さらには企業の生産技術の向上に役立つ技術を目指した。ところが、近年は都市化と情報化が著しく進んだ環境で、人々が安全で安心な生活を築く生活工学が要求されるようになった。こうしたことを背景に生まれた理系女子(工学系女子?)待望論の高まりも無視できない。
同時に、国立大が今まで抑制されてきた定員の枠を拡大できる現在こそ、奈良女子大など首都圏以外の大学が学部新設に踏み切るタイミングでもある。大学経営の面からも、工学部誕生で企業連携が進み、国からの運営費交付金や学費など以外の収入増も望める。消費者も視野に入れた工学部の生活科学の学びには、企業側の期待も大きいからだ。現在も、お茶の水女子大は企業に研究連携を呼びかけている。
工学系女子の経済的支援を打ち出した大阪大学の理工系学部だけでなく、女子学生の比率10%台がほとんどの工学部で、教育研究面で少数の悲哀を訴える女性も少なくなかった。その点、女子大ならまったく心配なく勉強や研究に打ち込める。この心理的メリットは大きい。
考えてみれば、なぜ今まで女子大工学部がなかったのかが不思議なくらいである。
奈良女子大の工学部はDS・AIと生活工学
アンブレラ方式で奈良教育大学と同一の経営法人下に入った奈良女子大の工学部新設は、将来における総合大学の道筋も考えているのではなかろうか。同時期に誕生する“マンモス”大阪公立大学(仮称)や、理工系学部に入学した女子学生への経済的入学支援プランを打ち出した大阪大などとの競争で、優秀な理(工)系女子の確保に先手を打つ狙いもありそうだ。
奈良女子大の新工学部は、データサイエンス(DS)・人工知能(AI)活用と、人の暮らしに役立つ生活工学などを学ぶ。生体医工学系、情報系、環境デザイン系、材料系の4系統があり、それぞれ多彩な科目が並び、意欲的だ。
これまで、工学部で学ぶ技術は進化・細分化し、その技術成果に人々の消費生活を合わせてきた。ところが、この4系の学びからは、人々の生活や社会に技術を上手に適合させようとする発想が垣間見られる。
関西圏は首都圏より国公立志向が強く、まして現役志向の強い理系の女子受験生にとって、後期入試を実施している奈良女子大の工学部は、後期試験のない京都大学や大阪大の前期の併願先としても最適だ。もちろん第1志望も少なくないだろうし、難易度は初年度からかなり高くなりそうだ。
お茶の水女子大の共創工学部は2学科に
2016年に大学院に奈良女子大との生活工学共同専攻を設置したお茶の水女子大も、2023年度に人の暮らしに役立つ生活工学などを学ぶ共創工学部を新設する予定だ。まず人間環境工学科を新設する計画で、環境や建築、医工学や材料など人間生活の視点で技術と情報を研究する現在の生活科学部人間・環境科学科をベースに、理学部情報科学科のノウハウもフルに活用する。奈良女子大との共同設置による大学院生活工学共同専攻で蓄積してきた成果を生かすことができる。
続いて、2025年度には人文科学と情報学を融合させた文化情報工学科を増設、1学部2学科とする。同大学の文理融合AI・データサイエンスセンターで行われる、学際分野における研究と教育の実績がベースになる。ジェンダーの視点を取り入れ、DSやAIに興味を持つ女子生徒のニーズに対応する。
高校では2022年度から「情報」が必修科目となり、プログラミングやデータ分析の素養を持つ生徒が急増するだろう。奈良女子大やお茶の水女子大の新学部は、これから高校で情報を学ぶ女子受験生の人気を呼ぶことは必至だ。
(文=木村誠/教育ジャーナリスト)