10月31日、天皇皇后両陛下主催の秋の園遊会が開催されましたが、その席上で、山本太郎参議院議員が天皇陛下を呼び止め、自身の手紙を渡したことがニュースになりました。
その後、この山本議員の行動について、与党の大臣や各党の党首などが「天皇の政治的利用であり許されない」などの批判的なコメントを発表しています。
これに対し、山本議員はブログなどで「原発事故による子どもの健康被害や事故の収束作業にあたる作業員の健康状態を知ってもらいたかった」といったコメントを発表したり、また、マスコミのインタビューに対し、「憲法に天皇に手紙を渡してはいけないと書いてない」と答えたとか答えてないとか。また、インターネット上の掲示板では、山本議員が手交した手紙の「偽物」がアップされたり、おかしな方向に議論が進んでいる気がします。
そこで今回、現行憲法下における天皇の「役割」について改めて整理し、その上で、今回の山本議員の行動が、はたしてどのような意味を持つ行動であったのか、どのように評価される行動なのか、彼の行動の是非について検討したいと思います。
●現行憲法下における天皇の「役割」
国の基本原則をまとめた憲法は、まず、天皇の地位について「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く(原文ママ)」と規定しています。次いで、天皇の行動について、「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ(原文ママ)」、「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない(原文ママ)」と規定しています。
ここでいう「国事行為」とは、憲法7条に列挙されている行為で、例えば法律を公布すること、国会を召集すること、衆議院を解散すること、大臣の任免を行うこと、恩赦等を行うこと、などです。
これらをみると、憲法上、「(天皇は)国政に関する権能を有しない」とされているのに、なんだか高度に政治的な行為を行っているようにも思えます。
しかしながら、これまで学者たちが研究を重ね喧々諤々の議論した結果、「天皇の国事行為は、本来、高度に政治的な行為だが、常に内閣の助言と承認を必要としているので、結局、形式的な行為になる」から問題ないということで落ち着いているようです。
重要なのは、天皇は憲法上、そして、学者たちの努力によって、厳格に「国政に関する権能を有しない」とされている点です。そして、天皇が政治的な権力・能力を有していない以上、主権者である「国民」のほうも「天皇を政治的に利用したりしてはいけない」ということが、いわば暗黙の了解として導かれます。
なぜなら、「国民」が天皇を政治的に利用すること、例えば、選挙運動の際、天皇の写真を利用すれば、それを見た人は天皇もこの候補者を応援しているのではないかと誤解することとなりますし、このようなことが続けば、政治的な権力・能力を有していないにも関わらず、いつしか天皇に「政治に利用できる能力」という政治的な権能を付与してしまうことになりかねないからです。
このように、現行憲法下では、「天皇と政治」はとてもデリケートな問題であると理解することができます。
●山本議員の行動は適切だったか?
上記内容を踏まえ、今回の山本議員の行動が、「天皇を政治的に利用したりしてはいけない」という暗黙の了解に抵触するか否かを判断するためには、彼の行動が、政治的なものだったのかどうかを慎重に検討する必要があります。
山本議員は自身の行動について「原発事故の被害を知ってもらいたかった」と述べていますが、山本議員は選挙活動中から「脱原発」をかかげ、また、自身の公式サイトでも「原発即時撤退」を政策の一つとしています。
このような山本議員の政策を前提とするならば、天皇陛下に「原発事故の被害」などをしたためた手紙を手交することは、「広く世の中に原発事故の被害を知らしめ、もって、原発を廃止する」という彼の政策を天皇陛下にお伝えしたと評価することができます。
したがって、山本太郎議員の行動は「天皇を政治的に利用したりしてはいけない」という暗黙の了解に抵触すると考えるのが相当です。
●では、違法か?「請願法」との関係
もっとも、だからといって即違法となるかというと話は別問題です。
なぜなら、憲法は「国政に関する権能を有しない」として天皇が政治的な権力・能力を持つことを禁止していますが、「天皇を政治的に利用したりしてはいけない」というものは、あくまで暗黙の了解にすぎませんので、憲法、法律に抵触するものではないとも考えられるからです(社会的・道義的な責任は別として)。
ただし、「請願法」との関係では慎重に考える必要があります。
憲法は16条で「何人も、損害の救済などに関し、平穏に請願する権利を有する」と規定し、国民が国の機関などに対し「お願い」をする権利を認めています。この条文を受けて「請願法」は、「請願は、請願者の氏名及び住所を記載し、文書でこれをしなければならない」と規定しています。