朝日新聞出版『大学ランキング2016年度版』の2015年偏差値ランクと最新の河合塾「Kei-Net」の2023年の予想偏差値を比べ、2023年入試がどうなるかを探る企画で、前回は人文系と法・政治系、経済・商・経営系の文系3学部系統を紹介した。
今回は、理工系・医療系の理系2学部系統を取り上げたい。前回も触れたが、大学入試の難易を測る偏差値は絶対的な基準ではなく、模試評価をする側の受験生集団の質によって変わるものであるが、合格偏差値の変化による難易変動は参考になる。
最近、政府の教育未来創造会議が「理系5割」を提言しており、日本学生支援機構の給付型奨学金の所得制限に関しても、多子家庭と並んで理工系・農系の志望者という条件が加えられている。世を挙げて、理工系へと受験生の流れを導こうという動きが強まっている。
河合塾の模試受験生の志望動向を見ても、昨年より理系の志望者が増加し、文系志望者は減少している。もともと国立大はものづくりの工学系の学部定員が比較的多かったが、私立大は文系のみの学部で理系学部のない大学も少なくない。ただ最近では、2023年に共立女子大学が看護学部はあったものの、建築・デザイン学部を新設するなど、理工系を意識した新増設が目立つ。
2024年には、明治学院大学が初の理工系の情報数理学部を新設する予定である。また、同年には千葉県柏市の麗澤大学も経済・外国語・国際の3学部に加えて工学部を新設する予定で、その総合大学を目指す学部構成が注目されている。工学系は設備・施設のコストがかかり、日々技術革新が進み、最新の専門知識を持つ教員スタッフを確保するのが大変で、このように、まったくの新設は思い切った決断であったろう。
東京理科大学理工学部が2023年4月から創域理工学部と名称変更をするのも、新領域を創造する融合教育を目指しているからだ。
大学教育によって社会的ニーズに合った人材を育てるには、文理融合志向も含め、理数系の知識が欠かせない時代になったということであろう。
新時代に対応した学部新設や衣替えが続く
工系の偏差値変動を見ると、文系と比べると数字そのものは大きく変わらない。これは文系が学科間の偏差値の差が開きやすく、本記事では調査の2023年の予想偏差値についてはその学部の学科で最高値の偏差値ランクを基準にしているため、全体的に偏差値の上昇率が高くなるが、理工系は比較的安定しているからであろう。
早稲田大学の3学部と慶應大学・理工、上智大学・理工のトップクラスは不動だ。ただ、人気学科の浮き沈みはある。
その中で地味だった上智の理工学部には、一味違う強みがある。「科学技術に関する英語力」を養成するのが売りだ。まさにグローバリズムのエンジニアを養成している。英語による情報発信など外国企業との折衝に携わるセールスエンジニアにも向いている、また、理工系研究者として、学会などでの発表や質疑応答のスキル、論文の書き方などの語学力と、それを通して理工系最新知識をより専門的に学ぶことができる。学科も学際色が強く、機能創造理工学科、情報理工学科、物質生命理工学科の3学科だ。
東京理科大も伝統の理学部をはじめとして、理高文低の流れに沿ってトップに食い込んでいる。河合塾の偏差値では、理学部と工学部が62.5となっている。前述のように、2023年から創域理工に変わる理工学部は、人気が上昇している。
MARCHクラスの注目株は、明治大学の総合数理学部であろう。新設当時は受験生の一部に学びのイメージが浮かばないという声もあったが、最近のデータサイエンスブームもあって注目されるようになった。同大学には情報コミュニケーション学部もあり、女子受験生がそちらに流れる傾向もあるようだが、数学好きの女子受験生にもっと注目されるようになれば、さらなる偏差値アップの可能性が高い。
法政大学のデザイン工も人気上昇中で工学系女子にも期待されている。その点で、MARCHではないが、芝浦工業大学のデザイン工も注目される。同大は以前から理工系女子の受け入れに積極的で、そのトレンドに乗って今後伸長が期待できる。
理工系で無視できないのは、衰えないバイオブームもあり、医学部や工学部と一味違う生命科学の分野であるが、注目株は立命館大学・生命科学、関西学院大学・生命環境、東洋大学・生命科学、東京薬科大学・生命科学などである。理系女子が期待される分野だ。
その点で、伝統のある国際基督教大学・教養、早稲田大学・教育、津田塾大学・学芸、東京女子大学・現代教養、日本大学・文理などの各学部理系学科の動向が注目されている。もともと女子大や女子学生になじみの深い学部学科なので、ここも理系女子の受け皿として人気を集めているようだ。
薬学部と看護系の逆転現象が勃発か
医学部は長い間新設を認められず、最近、東北医科薬科大学(67.5)と国際医療福祉大学(65.0)が認められた。ともに中堅医学部クラスの偏差値ランクに食い込んでいる。
私大医学部にも、一定の期間、地方に勤務する義務が課される代わりに地方自治体などから返済不要の給付型奨学金が支給される地域枠入試が増えており、その分、競争率が高まる傾向にある私大医学部も目立つ。
東京の有力私大医学部も例外ではない。学費が高額で平均的な中流家庭の受験生には縁遠かった有名私大医学部で、数年前まで学費値下げを導入するケースが増え、それらの大学医学部の偏差値が上がる傾向が指摘された。最近はコロナがテーマのテレビ番組でコメンテーターとして登場する私大医学部教員も少なくなく、知名度アップに寄与している。
ただ、最終的には医師国家試験合格率が高いことが必要条件である。その動向を見ると、私大医学部の合格実績はそう大きな変化はない。ただ、医学科を除くその他の医療系では、薬と看護の逆転現象が起きそうな気配だ。
2015年当時は花形であった薬学部が、厚生労働省の将来予測で薬剤師過剰時代がうたわれ、2024年以降は新設が原則認められないのに対し、看護師はこれからも不足が続くと予測されている。そのため、看護系学部の新設も目立ち、偏差値上昇の傾向がある。
2015年当時は、共立薬科大学が前身の慶應大学・薬学部の偏差値は中堅私大医学部医学科と肩を並べ、東京理科大薬学部も地方の私大医学部に肉薄していた。ところが両大学の薬学部をはじめ、中堅私大薬学部が軒並み偏差値ダウンし、今や看護系と同格の印象である。
今後は、さらに看護系の躍進が予想され、逆転現象も起きうる。
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