昨年12月、東京都の公立中学校にまつわる以下のTwitterのつぶやきが注目を集めていた。
<「魔境の東京の公立中」に15年間で何が? 2007年の全国学力調査。公立中学対象の東京の順位は47都道府県中の30位。小学校が6位なのでまさに魔境。それが2021年は何位だと思います? 4位ですよ(驚)「東京公立中魔境論」は過去の話。東京は15年間で日本屈指の公立中優良自治体に変貌しました>
<東京の公立中爆上げの要因に自治体の努力は間違いなくあります。見学した区立中の多くは数学や英語が1クラス平均15人前後の学力別少人数授業でした。基礎コースは教師2人体制で机間巡視する手厚い学校ばかり。地方や昔の様子しか知らない人には衝撃かも。地方は未だ学力別授業すら及び腰です>
全国学力調査とは、文部科学省が実施する「全国学力・学習状況調査」のこと。本調査では、全国の小中学校の最高学年で国語と数学の2教科がテストされ、各都道府県の教科ごとの回答率が明らかになっている。2007年の国語・数学を合わせた東京都の公立の平均点数を見てみると、小学校が298.2点と全国6位であるのに対し、中学校が285.6点と全国30位と、たしかに低めの水準となっている。だが21年の東京都の中学校を見てみると、東京都は国語・数学の平均合計点数が127点で、全国4位にまで上昇しているのだ(合計得点は07年と21年とで異なる)。
なぜ、東京都の公立中学校の学力は15年間で急上昇したのだろうか。大田区議会議員のおぎの稔氏に聞いた。
かつては優秀な生徒ほど公立中には行かなかった?
ツイートによると、東京都は15年の間で日本屈指の公立中学優良自治体になったというが、「東京都公立中魔境論」などと揶揄されていた頃は、どういう状態だったのだろうか。
「従来の東京都の公立中学校は、学校の雰囲気や授業にかなり多様性がありました。生徒も成績優秀な子もいれば悪い子もいるという、さまざまなタイプがいたイメージです。成績も属性も異なる生徒が在籍しているので、一部の不良学生が目立って中学校自体が荒れやすくなってしまい、魔境論というかたちで揶揄されてしまったのではないでしょうか。
一方、東京都の私立はというと、中高一貫校やエスカレーター式の学校もあり、学費が高い分、教育環境に力を入れやすいので成績の良い生徒が集まりやすいという傾向があります。私立は公立のように文科省の学習指導要領の制約を受けないため、効率の良い中高一貫カリキュラムを受けられるところが多いのです。そういった環境が整っているため、学力の高い子ほど私立に行こうとする傾向があり、結果、学力がそこまで高くない生徒が公立に集中していたのだと思います」(おぎの氏)
自治体の改善努力以外にも複数の要因が考えられる
では、東京都の公立中の学力が向上したのは事実なのだろうか。本当だとしたら、どういった要因が考えられるのか。
「まず東京都の公立中学校の学力は着実に上がっていて、公立中学校から公立高校の進学だけでなく、偏差値の高い私立高校に進学するような生徒も多い状況となっています。そして学力向上の背景には、やはり自治体が改善に努めてきたという要素が大きいと思います。保護者から子どもの学力向上の対策を求められ、それに対し自治体が改革してきたことが結実したのでしょう。
ツイートにあったような、数学や英語が1クラス平均15人前後の学力別少人数授業になっていたり、基礎コースは教師2人体制で机間巡視するようになっていたりなどが普通だというのは言いすぎかもしれません。実際には授業内容は学校ごとに違いがありますからね。けれど、たしかにどこの学校も進学に力を入れていますし、進学に向けた少人数授業や学力別の特化コースなどは多くの中学校が取り入れていると思います」(同)
東京都の住宅価格高騰が影響している可能性や、長年の社会問題である少子化の影響も考えられるという。
「東京都の不動産物件の価格は年々上昇していますし、駅前の再開発などが行われたエリアはさらに高騰していますので、以前よりも世帯収入が高い家庭が増え、非行に走る生徒が減ってきているのかもしれません。また、東京都に限ったことではないでしょうが、一昔前のような集団非行や少年犯罪といった若者による違法行為自体が減少傾向にあるため、中学生のあり方に変化が表れているのではないでしょうか。そして、年々少子化していくなかで、子ども1人に対する公的な支援は徐々に手厚くなってきていますし、子どもに対する保護者のお金のかけ方も変化しています。したがって少子化が学力向上につながっているという事実はあるでしょう」(同)
(文=A4studio、協力=おぎの稔/大田区議会議員)