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東京医科歯科大学、化学の入試問題が「完全な不成立」?出題ミスが起こる理由

文=日野秀規/フリーライター、協力=若原周平/予備校講師
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「gettyimages」より

 大手学習塾のものとみられるテキストで、東京医科歯科大学など難関大学の化学の入試問題を「問題不成立」としたり、一意の解答が導き出せない不備があるとして出題ミスを指摘していることが一部で話題を呼んでいる。指摘の記述には

「どこか一箇所修正して済むレベルではない完全な不成立問題となっており、全体的に解答不能な稀代の悪問」

「出題者の脳内にあるであろう想定模範解答を忖度して答える必要がある」

「出題者は単に問題を難しくしようと作成するのではなく、正しく一意に定まる問題を正確に作成する能力を身に付ける努力をし、またそれを複数人で検証することを強く求める」

などと問題作成者への「厳しい文言」もみられる。なぜこのようなミスが発生するのか、そして生徒はどう対処すればよいのか。予備校講師の若原周平氏に解説してもらった。

出題ミスは「数年に一度」起きている。その背景にある2つの理由とは

 最初に確認しておきたいのが、難関大の化学入試問題において、出題ミスはよく起こるものなのか、ということだ。

「毎年というほど頻繁ではありませんが数年に1度は起こるので、我々としてはそう珍しく感じるものでもありません。出題ミスが特に難関大で起こるという印象を持たれやすいのは、2つの理由によります。まず、問題を難しくして生徒を振るい落とそうとする場合です。過去のパターンとは違う問題を作る際に、ミスが生じやすくなります。そしてもう1点、難関大で起こることはメディアやSNSなどで取り上げられやすいということもあるでしょう。大阪大学や東京医科歯科大学など、国立上位校での出題ミスはやはり話題になりました」

 ところで、実際のところ作問者たる大学教員は「正確に作成する能力」を身につけておらず、問題を「複数人で検証」する体制も確保されていないのだろうか。

「大学教員に知り合いがいます。問題の中身についてはもちろん何も教えてくれませんし、こちらから尋ねたりもしませんが、ダブルチェックは必ず行っていると聞いています。ただ、作問を担当する大学教員は研究や教授のプロではありますが、大学入試問題作成のプロではないわけです。能力は抜群に高くても、試験問題に落とし込んだ時に生じるミスをゼロにすることは難しいです。試験問題の作成に限っては、日ごろから模試の問題を作成している予備校講師のほうが得意でしょうね」

出題ミスは「教科書と現実の差」のはざまで起きる。現実より教科書の記述を優先する必要も

 構造的に、毎年、全国で行われる入試問題においてノーミスを徹底することは難しいといえそうだ。であれば、主題ミスに遭遇する可能性を念頭に置き、特にミスが生じやすい分野や問題の形式を知っておけば、受験生にとって有利に働く可能性があるかもしれない。

「問題が含む要素が、教科書に書いてあることだけで構成されているならミスは起こりません。ミスが生じやすくなるのは、教科書には簡略化して書いてある知識と、実際の現象との差がある場合です。

 たとえば、2022年の大学入学共通テストで出題された燃料電池についての問題は、『準ミス』といえそうなギリギリなものでした。燃料電池は水素と酸素を反応させて発電するもので、自動車や家庭用発電機器などでの活用が進められています。そのしくみは非常に複雑なのですが、教科書では簡単に説明されています。試験問題では実際の燃料電池について出題されたのですが、教科書に明確に書かれていない部分で解答が1つに決まらない出題があったのです」

 燃料電池に限らず、化学実験や有機物のふるまいなど、実際の現象において教科書に載っていない反応や挙動が起こる事象について、出題ミスが起こる可能性は高くなると若原氏は言う。

「難関大入試では教科書に書いてあることを出題しても点差がつきませんから、難関大であるほど『攻めた問題』が出題されます。何事も挑戦にミスはつきものですが、とはいえそこは受験生の人生を左右しかねないわけですから。問い方の工夫1つであいまいさを排除できる場合もありますし、答えが1つに決まることを大事にしてほしいですね」

ミス問題は世にあまたある難問・奇問と同じ。受験の「定石」に沿って取り扱うこと

 出題ミスは起こってほしくはないが、今後は起こらないとは到底いえないようだ。となれば、受験生としては出題ミスに引っかからないことが最大の防御となる。どうすればミス問題を見抜くことができるのだろうか。

「ミス問題は、答えが1つに決まらず迷いに迷うという形で受験生を苦しめますが、ミス問題を見抜こうと考える必要はなく、難問・奇問と同じように対処すればよいでしょう。ちょっと時間を食いそうだなと感じたら思い切って飛ばし、次の問題に進むことです」

 これはミス問題ではないか? という疑念を試験官に問い合わせてみたところで、答えが試験時間中に返ってくるわけでもない。ムダなことはせず、とにかく解ける問題を一通り解き切り、取れる点を取り尽くして、時間の余裕を作ってから戻ればよいということだ。

「大学受験の定石として、空欄を作らず何かしら書いておけば、点がつく可能性があります。たとえミス問題の疑いが濃厚な問題であっても、推測した解答を書いておくべきです。解答の枠は必ず埋めておきましょう」

 最後に、若原氏から受験生に向けたメッセージを聞いた。

「受験にまつわるいろいろなことが気になる時期かと思いますが、ミス問題を過剰に恐れる必要はありません。とにかく日々の勉強にまい進してほしいと思います。教科書や市販の問題集は非常に丁寧に作られており、ミス問題は収録されていません。必ず丸がもらえる解法が書いてありますから、安心して正しい知識を身につけ、合格に向かって進んでいきましょう」

(文=日野秀規/フリーライター、協力=若原周平/予備校講師)

若原周平/予備校講師

若原周平/予備校講師

名古屋市立大学薬学部薬学科在学時から塾講師に従事。小中部・予備校部責任者、校舎普及統括責任者を経て、現大手予備校講師。高校生・浪人生の化学の指導とともに、全統記述模試・全統共通テスト模試・全統記述高2模試、名大入試オープン等、様々な全国模試の作成に携わる。懇切丁寧な説明とやさしい口調で展開される授業は、身構えることなく、楽しみながら化学の本質を学ぶことができる!と評判

Twitter:@konnichi_wkhr

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