人気料理研究家のリュウジ氏が、レシピのなかで「味の素」を使うことに対して批判的な声が多く出ている。リュウジ氏は、元日に発生した石川・能登半島地震を受け、味の素を使用した“ライフハックレシピ”を公開したほか、自身は防災リュックに味の素を常備していることをX(旧ツイッター)に投稿した。
だが、味の素を愛用するリュウジ氏に対し、年末年始に何度も“味の素否定派”から批判の声が噴出し、リュウジ氏が応戦する場面が繰り返されている。
そこで、東京都立衛生研究所(現・東京都健康・安全研究センター)で長年にわたり「食の安全」について調査・研究を行ってきた実践女子大学名誉教授の西島基弘氏に、味の素についての見解を聞いた。
「味の素は我が家にもありますが、<グルタミン酸ナトリウム:97.5%、イノシン酸ナトリウム:1.25%、グアニル酸ナトリウム:1.25%>との記載があります。グルタミン酸ナトリウムにイノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムを加えてあるのは、呈味(ていみ:食べ物の味)の相乗作用を狙ったものです。
料理家のリュウジ氏がレシピのなかで味の素を使うことに対して批判的な声が多く出ているとのことですが、おそらく我が家にある味の素と同じものではないかと思います。その内容は『体に悪い』『味覚を壊す』とのことのようですね。
まず、体に悪いのか、ということに関して。主成分のグルタミン酸ナトリウムやイノシン酸ナトリウム、グアニル酸は食品添加物で指定添加物になっています。ということは、厚生労働省は食品添加物を許可する場合、食品安全委員会に安全性を確認し、その他規格試験など多くの項目がしっかりしたものを指定添加物に分類しています。
ここで問題なのは、食品添加物というと意味なく“危険”と騒ぎ立てている人たちがいます。ネットを見ると必ず食品添加物の品目を意味なく危険と騒ぎ立てています。危険と騒ぎ立てている人たちは、論文等の内容から危険と言っているのではなく、あくまでも<食品添加物=化学物質=危険>の感情的な論法から来ています。
しかし、どんな物質でも考えられないほど大量に摂取した場合、健康障害がおきますね。例えば、ヒトにとって必要な塩化ナトリウム(食塩)でも、毎日50g程度食べたとすると、高血圧や胃がん等の健康障害は起きます。砂糖も毎日100g程度食べたとすると肥満等、誰でも体に悪いことは知っていますね。
味の素も適量使用すれば、いろいろな料理を美味しくします。しかし、味の素も非常識に大量に加えた場合、なんらかの障害が起きると思います。変な話ですが、昔、“味の素をたくさん食べると頭が良くなる”という間違った噂が拡散したことがあります。その時、私は家にある味の素をお湯に溶かして飲み、とてもまずかったことを覚えています。大量に使用すると、かえってまずくなるのではないかと思いますが、一般的に料理に加える程度の量では健康障害は起きません。
次に、味覚障害ですが、これも根拠はありません。良い例は思いつきませんが、味の素に限らず、例えば高価なケーキばかり食べていた人が、とても安いケーキを食べたときに、まずいと感じるのは味覚障害といえるでしょうか。
味覚障害は一般的に亜鉛不足が有名ですが、新型コロナ感染症の患者の大よそ半数に味覚障害が起こることが報告されていました。味の素に関しては、亜鉛不足や新型コロナで起きる可能性がある味覚障害とは根本的に違った、単なる感情的な噂で根拠がありません」(西島氏)
50年ほど前に味の素社が販売する一部製品が、石油由来の原料から合成法により生産していた時期があったことから、危険性が指摘されるようになり、今にいたるまで身体に悪影響を与えるという噂が払拭されずにいる。
だが、1987年にはFAO(国際連合食糧農業機関)・WHO(世界保健機関)の合同食品添加物会議がグルタミン酸ナトリウムは安全だと認めており、FDA(アメリカ食品医薬品局)などの機関も安全性を確認している。
(文=Business Journal編集部、協力=西島基弘/実践女子大学名誉教授)