「この長野県の取り組みが全国的にも認められ、滋賀県や山梨県でも衛生ガイドラインの作成を手伝うことになりました。これにより、5年ほど前は獣肉処理施設の数が全国でも100カ所ほどだったのが、今では約250カ所にまで増えました」(同)
今までは猟師に知り合いがいれば直接獣肉を譲ってもらえたが、処理施設を通すようになったことで、誰でも獣肉を手に入れられるようになった。このような取り組みが全国的に広がったことで、都内の飲食店でも獣肉を取り扱いやすくなり、ジビエブームへとつながったということなのだろう。
●ジビエ普及で鳥獣被害の抑制に期待
このジビエブームは、野生鳥獣による農林水産業への被害を抑制する効果も期待されている。農林水産省の発表によると、12年度の全国の野生鳥獣による農作物被害額はおよそ230億円にも上るという。さらに、その被害額の半分は鹿と猪によってもたらされている。
しかし、現状ではジビエブームによって鳥獣被害を減らすことはなかなか難しいと藤木氏は語る。
「長野県内での鹿の適正頭数は3万5000頭といわれています。しかし、現在は15万頭ほど生息しています。そして、長野県が1年間に捕獲している鹿の数は2万頭で、そのうち食肉として利用されているのは7%で、93%は山に捨てている状態です。捕獲数に対して食肉利用が20%ぐらいになれば、肉の販売利益を被害対策や狩猟費用にまわすことができ、事業サイクルができあがります。現在、最も食肉利用が進んでいる北海道でも14%ほどですので、まだまだ改善の余地があります」(同)
現状では、どこの獣肉処理施設も冷凍庫の中に獣肉の在庫が残っているそうだ。とはいえ、ジビエブームはまだまだ始まったばかり。今後、ジビエを取り扱う飲食店がさらに増えれば、鳥獣被害を抑制することにつながるかもしれない。
(文=千葉雄樹/A4studio)