●出版の誘いによるワナ
pixivでは、イラストだけでなく漫画を公開している人もいる。その漫画制作者にも業者が声をかけることはよくあるようだ。その中で、特に注意すべき事例を紹介したい。
それは、二次創作作品を公開している人に対しての誘いだ。もちろん、二次創作を一般書店で売る商業誌として販売することはできない。具体的には、同人誌として販売するに当たって「あなたの作品は人気があるので、大量に印刷しましょう。印刷代は当社が持ちますから、利益は折半してください」といった誘いだ。
同人誌は、著作権的にグレーな存在だ。権利者がお目こぼしをしている限りはグレーだが、訴え出ればすぐに黒になる。権利者が訴えないのは、同人誌は個人のファンによる活動であるから、大目に見ようという建前があるためだ。
しかし、そこに業者が介入して多くの利益を上げるようになれば話は変わってくる。権利者としても見逃すわけにはいかなくなるだろう。楽しく絵や漫画を公開し続けることは難しくなることも考えられるので、このような誘いは絶対に受けてはいけない。
こうした詐欺のようなビジネスが、ビジネス無料通話・メールアプリのLINEで5月から始まったクリエイターズスタンプでも登場しつつある。依頼内容は「○○円を払うから、LINEスタンプの1セットを描いてほしい」というものだ。
LINEクリエイターズスタンプは、誰でも無料でチャレンジできるのが一番の特徴だ。審査を通過すれば、売り上げの50%が制作者に還元される。この制度を利用して、制作は丸投げしながら、申請だけ業者が行うことで収益を丸取りするのだ。スタンプの人気が出たとしても、制作者には利益は還元されない。知識のない人からだまし取ろうという考え方ではないか。
今後、個人が自作の絵を簡単に販売できる場が増えてくる可能性はある。そのたびに、この手の業者は出てくるだろう。言われるまま鵜呑みにはせず、依頼を受ける前にはサービスをきちんと調べるようにしたい。
●知識を身につけ、ゲートをつくってガードする
搾取されないためには、まずは知識を身につけることだ。イラスト1点、漫画1枚の原稿料はいくらが相場なのか、どのようなケースで原稿料が発生するのか、依頼に付随して受けるべき作業と別料金で行うべき作業の境界線など、そうしたことを知っていれば、妥当な依頼を選ぶことができる。今はTwitterやブログなどで、そのような情報を仕入れることができるので、依頼を受ける前に検索するべきだろう。
あからさまにおかしな依頼を受けないために、事前にゲートを用意しておくことも有効だ。例えばpixivのプロフィールに「絵の仕事は受けません」と書く。または「絵の仕事はこちらのメールアドレスにお問い合わせください」「ホームページのメールフォームからお願いします」などと明記し、pixivのメッセージ機能を使わせない方法だ。
手当たり次第に依頼しているような業者は、そうした注意書きを読んでいないのか、読んでいても無視しているようだ。しかし、注意書きをしておけば、それを無視してくる業者は、相手にしないほうがいい。
積極的に仕事を受けてみたいのならば、あらかじめ自分の絵に値段をつけておくこともできる。イラストのソーシャルワークサービスに登録する方法だ。A4サイズカラーなら1枚いくら、と提示しておいて依頼を待つ方式だから、少なくとも予想外に安く働かされる心配はない。pixivから依頼が来た時にも、依頼はこちらを通してくださいと言いやすい。
あまり立派な値段はつけたくない、気軽に絵を描いてお金をもらう体験をしてみたい、という程度ならば、「coconala」がお勧めだ。1依頼500円で受けていいと思うものを自分が出品する方式だから、例えば「Twitterのアイコン程度なら描いてもいい」など、自分なりに気軽なチャレンジがしやすい。
できればプロになってみたいという憧れや、誰かの助けになるのならばがんばってみようという親切心を食い物にする悪徳業者をうまく避け、よいチャンスだけをつかめるようにしよう。
(文=エースラッシュ)