しかし、2005年の「ムハンマド風刺画問題」(デンマーク最大の発行部数を誇る高級紙ユランズ・ポステンに掲載されたムハンマドの風刺画に対してイスラム世界が反発し、デンマーク大使館にデモ隊が押し寄せ、大使を召還し、不買運動を起こすなどの騒動となり、欧州とイスラムとの間の緊張が高まった事件)の際の日本の新聞の論調は、これとは対照的だった。
例えば、06年2月28日付読売新聞の『編集手帳』では「暴力で表現の自由を脅かすのは沙汰の限りだが、信仰を侮辱すること以外にほとんど意味のない風刺画が、〔人の心の〕『傷』を入念に測った上の表現であったかどうか、掲載したメディアは静かに自問すべきだろう」と述べ、また、同年2月10日付毎日新聞は社として次のような声明を出している。「毎日新聞は以下の理由から、預言者ムハンマドの風刺漫画を掲載しません。これを掲載した欧州諸国の新聞は『表現の自由』『言論の自由』を盾にとっています。しかし表現の自由は節度を伴わなければならず、言論の自由は良識の裏付けが必要だと判断するからです」
また、13年の「カナール・アンシェネ風刺画問題」(シャルリー同様、辛辣な社会風刺で知られるフランスの週刊新聞カナール・アンシェネが原発事故と日本サッカーを絡めた風刺画を掲載した事件)の際も日本の新聞各紙は、日本政府(菅義偉官房長官)の「東日本大震災で被災した方々の気持ちを傷つけ、東京電力福島第一原子力発電所の汚染水問題に誤った印象を与える不適切な報道で、大変遺憾である」との見解におおむね追随し、13年10月14日付東京新聞が『仏流風刺 摩擦相次ぐ:福島やイスラム教の絵「笑えない」』といったタイトルを掲げるなど、フランスの風刺新聞に厳しい論評を加えるものも見られた。