最大の柱は「高度プロフェッショナル制度」の導入と「企画業務型裁量労働制」の拡大だ。この2つの実現は経済界の長年の悲願だった。しかし、経営者には莫大な利益をもたらすが、どこから見てもサラリーマンには不利益どころか、長時間労働による健康被害を引き起こしかねない極めて“有害”な仕組みなのだ。
筆者は第一次安倍晋三政権で世論の反対を受けて廃案になった今回と同じ制度が、サラリーマンの生活にどのような悪影響を及ぼすのかを取材した。そしてアベノミクスの成長戦略の目玉として再登場したこの制度が現実味を帯びてきた中で、このままではサラリーマンが何も知らされないままに制度の対象にされてしまうことに危惧を感じ、政府・経済界の本当の狙いを知ってもらいたいと思い、このほど『2016年残業代がゼロになる』(光文社)という本を緊急出版した。
本稿では、なぜこれら2つの制度がサラリーマンにとって有害な仕組みなのかを説明したい。
●高度プロフェッショナル制度
高度プロフェッショナル制度は、管理職以外の一定のホワイトカラーのサラリーマンを労働時間規制の適用除外にするもので、アメリカのホワイトカラー・エグゼンプション(適用除外制度)の日本版だ。つまり、時間外、深夜・休日の残業代を一切支払わなくてもよいとする制度だ。
日本の労働時間規制は「1日8時間、週40時間」以上の労働を原則禁止している。それでも働かせたい場合は、時間外労働は25%以上の割増賃金(残業代)を支払うことを義務づけている。言うまでもなく、割増残業代というペナルティを使用者に課すことで、労働者の健康を守るためである。
では高度プロフェッショナル制度の対象になるのは誰か。「法律案要綱のポイント」(厚労省)では「高度の専門的知識等を必要とし、職務の範囲が明確で一定の年収要件(少なくとも1000万円以上)を満たす労働者」となっている。年収は「平均給与額の3倍を相当程度上回る」ことが法律に書き込まれ、具体的金額は法律より格下の省令で「1075万円以上」にする予定になっている。ちなみに法律に明記される「平均給与額の3倍」とは、厚生労働省が使う指標で計算すると936万円だ。
業務要件の「高度の専門的知識等を要する業務」が何を指すのかよくわからない。具体的な業務は省令で決めることになっている。法案の根拠となる厚労省審議会の報告書では例示として、金融商品開発、ディーリング、アナリストの業務を挙げている。しかし金融に限らず、あらゆる業界・企業には専門的知識が必要な業務がたくさんある。おそらく特定の業務に絞り込むことは難しいだろう。仮に当初は限定したとしても、法改正することなく政府の意向で随時変更できる「省令」で追加していくことは間違いない。