そんな中、広告代理店の東急エージェンシーは2016年新卒採用で「顔採用」を実施している。また、湘南美容外科クリニックでは、同じく16年新卒において、美容整形の体験者を積極採用するなどの「ビューティー採用」を展開している。
東急エージェンシーは、採用サイト内で「選考過程において、顔で採用の可否を判断するということは、決してございません。しかし一方で、優しさが口元に表れたり、意志の強さが目に宿ったり、顔はその人の内面を物語る、とも考えます」と説明している。
同社では、顔を分析する独自のシステムを開発し、その分析結果に応じて、「就活支援特典」を応募者に抽選でプレゼントしている。「せっかち顔」にはエントリーシートの設問を1週間先行公開、「のんびり顔」にはエントリーシートの締め切りを1週間延長、「心配性顔」は面接に5分の“延長戦”を設ける、といった具合だ。
それが同社の「顔採用」であり、決して美男美女を優先的に採用する狙いではない。しかし、そのストレートなネーミングのためか、インターネット上では「ルックスで区別するのか」「何を今さら」「むしろすがすがしい」と賛否両論が巻き起こった。当然、これらの誤解にも近い声が上がることは、同社も想定内だろう。
実際の反響および採用状況はどうなのか。取材を申し込んだところ、「すでに『顔採用』の応募受付は終了しており、抽選結果も発送していること」「次年度の継続が現時点では未定なこと」などを理由に、回答を得ることはできなかった。来年、再び「顔採用」が実施されるかどうか、気になるところだ。
就活生が行う「リクルート整形」の実態
湘南美容外科クリニックの「ビューティー採用」もユニークな取り組みだ。これは、「美しさ」を競うものではなく、「美への意識」を問うものとして、「美容マニアコース」「美コンプレックスコース」「美容整形体験者コース」の3つが用意されている。同クリニックに取材を申し込むと、こんな回答を得た。
「美容整形体験者コースは、自身が体験した美容整形についてアピールしていただくもので、すでに複数の応募があります。他院で施術体験がある人も応募可能で、今のところ応募者全員が当院でも施術を受けています。ほくろの除去や鼻の縮小など、複数の施術を体験している学生もいます」(湘南美容外科クリニック担当者)
「ビューティー採用」では、通常の自己PRよりも“応募者らしさ”が感じられることが多く、合格者が出た場合は、次回の実施も検討するとのことだ。また、学生と美容整形といえば、就職活動に備えて施術を受ける「リクルート整形」の存在がささやかれることも多い。これは、実際にあることなのだろうか?
「3月は繁忙期に当たり、基本的に前月より来院者は増えます。ヒアルロン酸注入や腋の手術・処置、レーザー系の施術が多いですが、就職や進学を控えている場合は豊胸、脂肪吸引、二重まぶた、歯などを希望する人が多いです」(同)
いわゆる“就職用”の美容整形は、顔立ちやスタイルを美しくするものだけではない。タトゥーの除去も就職前に施術を受ける人が多く、同クリニックにおける男女比は2:8で、ほとんどが女性だ。部位は、一番多いのが上腕、次に指だという。
「指にタトゥー」というのはあまりなじみがないが、「LOVE」「Freedom」といった文字やハートマークなどを入れる人も少なくないようだ。タトゥーと聞くと、どこかギャルっぽい印象を受けるが、デザインによっては「森ガール」のようなナチュラル系の女性がしていても違和感のないものもある。しかし、どんなに優秀な美女でも、指に「Freedom」と彫られていたら、就職の選択肢は狭まるだろう。
美しくなろうと思うのも、若気の至りを消したいと思うのも、「働きやすさ」を求めるがゆえだろう。心機一転、新たな姿で社会に羽ばたく若者を応援したいところだ。
(文=編集部)