早い人では30歳を超えたあたりから目立ち始める「白髪」。過度のストレスやショックで一晩で髪が真っ白に……というのはマンガやドラマなどでよく目にする表現だが、実は若いうちに急速なスピードで若白髪が生えてしまう人は、心理的な作用が原因ではなく、皮膚病の可能性も考えられるという。
池袋駅前のだ皮膚科で院長を務める野田真史さんに、若白髪が症状として現れ得る病気とその対処法、さらには白髪にまつわる噂の真偽について教えてもらった。
白髪になる原因とは
ミドルエイジの男性の白髪頭は「ロマンスグレー」と呼ばれ、ダンディズムと貫禄を感じさせるものだ。しかし、20~30代の若さで頭髪に白髪が交じっていると、老けて見えたり不潔に思われたりと、あまり良い印象を抱かれないことが多い。マイナスな印象すら与えてしまう若白髪だが、何が原因で生えてしまうのだろうか。
「白髪は『メラノサイト』という細胞の活動性が弱まり、髪の毛を黒くできなくなることで生えてきます。メラノサイトはメラニンをつくる細胞で、一般的には40代以降から働きが弱くなることがわかっています。しかし、メラノサイトの活動具合は、遺伝、人種、体質によっても異なるため、20~30代の若い世代でも白髪が生えてしまうことがあるのです」(野田さん)
では、このメラノサイトの働きが落ちないようにすれば、年齢に関係なく白髪の発生を防げるのではないか。しかし、野田さんは「それは難しい」と答える。
「現状では、白髪を予防する方法には明確な研究結果が出ていないのです。メラノサイトは毛髪をはじめ皮膚全般に関係する細胞であることから、一般的な皮膚病と同様に、バランスのとれた食事、十分な睡眠、そしてストレスの少ない生活を送ることが推奨されてはいますが、白髪の発生との関係は明らかになっていません」(同)
現段階では、白髪の予防法は確立されていないということだ。そして、白髪が出現し始めたら食い止める術はなく、あとは増え続ける一方なのだという。
「突然1~2本程度生え、それだけで終わるのであれば生活リズムの乱れなどが原因かもしれませんから、そこまで気にしなくてもいいでしょう。しかし、コンスタントに増えていくようであれば、残念ですが進行するのみだと思います」(同)
急激に増えた場合は皮膚病の可能性も
人によって進行具合が異なる若白髪だが、少しずつではなく、急激に頭皮の一部分に集中して生えた場合には病気の可能性もあるという。
「急激に若白髪が発生した場合は『白斑』という皮膚病の可能性も考えられます。白斑は、メラノサイトが局地的に失われることで皮膚を白くしてしまう病気です。突如、頭髪の一カ所がごっそり白くなり、その根本の頭皮も白くなっている場合は、白斑である可能性が高いでしょう」(同)
白斑は、全身どこにでも現れ得る皮膚病だ。そのため、頭皮や毛根のメラノサイトがなくなれば、そこから生えてくる毛髪にも影響する。しかし、自分の白髪が白斑の症状によるものなのか、体質によるものなのかは、見分けるのが難しい。判別方法について、野田さんは「生え方が見分けるポイント」と語る。
「白髪がどのように生えているかに注目してください。頭髪全域にまばらに出現する若白髪は体質や遺伝によるものですが、密集して一部分の毛髪が白くなっている場合は、白斑の恐れがあります」(同)
ほかにも、若白髪がなんらかの病気のサインや症状である可能性はないのだろうか。
「若白髪そのものは体の不調のサインではありません。しかし、たとえば白斑の合併症として甲状腺の機能が低下している恐れは考えられます。円形脱毛症に伴い、白髪が増える方もいます。若白髪が突然増え始めてから体調が優れない日が続くという場合は、内科的な原因が潜んでいる可能性があります。内科で血液検査を受けてみてもいいかもしれません」(同)
「白髪は抜くと増える」は本当か?
年齢にかかわらず、徐々に進行する通常の白髪の場合、一度生えた白髪が黒くなることはない。現在の医療では完治は難しいという。メラノサイトの機能低下というのは、それくらい深刻な問題なのだ。
一方で、巷には白髪に関する真偽不明な情報が氾濫している。なかには「海藻類を食べれば髪が黒い状態に戻る」という治療いらずの話もあれば、「若白髪は抜くとさらに増える」という都市伝説もある。これらの噂について、野田さんに聞いた。
「海藻類を食べると髪が黒くなるというのは、科学的に証明されていません。また、若白髪は意図的に抜いたところで“増える”ということはないです。毛髪は毛根自体のメラニンをつくる機能の低下によって白くなるので、ほかの毛根に影響するというのは考えられないでしょう」(同)
良い噂も悪い噂も、どちらも信憑性はないようだ。生活習慣の乱れで突発的に生えた場合は生活を見直すこと、白斑や脱毛症の症状として生えてきた場合は皮膚科で治療をすることが、現時点でできる若白髪への対処法といえる。体質や遺伝により早く生えてしまう若白髪は防ぎようがないので、酷ではあるが運命を受け止め、白髪染めで目立ちにくくさせるしかないだろう。
(文=ますだポム子/清談社)