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新見正則「医療の極論、常識、非常識」

乳がんのマンモグラフィ検診、「無意味」との調査結果…不必要ながん治療実施の恐れも

文=新見正則/医学博士、医師
乳がんのマンモグラフィ検診、「無意味」との調査結果…不必要ながん治療実施の恐れもの画像1「Thinkstock」より

 今回は、「がん検診100%」に関する話題で激論です。まず、“常識君”が整理します。厚生労働省が定めたがん検診は、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんで自治体によっては前立腺がん検診も行われています。そこで国策としてのがん検診を行う厚労省のHPをみると、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(健発第0331058号平成20年3月31日厚生労働省健康局長通知別添)には、以下のように記載されています。

・胃がん検診、50歳以上2年に1回 問診と胃部エックス線検査又は胃内視鏡検査
・子宮頸がん検診、20歳以上2年に1回 問診、視診、子宮頸部の細胞診および内診
・肺がん検診、40歳以上年に1回 問診、胸部エックス線検査および喀痰細胞診
・乳がん検診、40歳以上2年に1回 問診および乳房エックス線検査(マンモグラフィ
・大腸がん検診、40歳以上年に1回 問診および便潜血検査

 そしてこれらのがん検診の受診率は、どれも50%以下です。

 そこで、まずがん検診率を50%にしようというキャンペーンも行われています

 そんなHPをザッピングしていると、だいたい同じようなメッセージが出てきます。「国民の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなっています」というものです。この文言に嘘はなく、統計的な事実です。がんでの死亡率を減らすことは国民の健康にとっても大切であることは間違いありません。

 ここで“極論君”の出番です。「だからこそ、がん検診の受診率を100%にすれば、多くのがん患者ががんを早期発見できることになり、がんでの死亡率を減らすことができるのだ」とまくし立てます。確かに直感的にはそうでしょう。現状では2人に1人も受診していないがん検診です。まずは50%、そして将来的には100%の受診を目指すことは間違っていないようにも思えます。

がん検診は無意味?

 そして、いよいよ“非常識君”の出番です。「最大の問題点は、がん検診をしたからといって死亡率が下がるということが本当に正しいかということです」と、とんでもない意見を述べます。自覚症状がない患者さんにがん検診をすれば、がんが早期に発見できる可能性は大きくなります。

 しかし、早期に発見して治療するのと、自覚症状が出てから治療することに差がなければ、がん検診は無意味になります。検診で早期発見されて、そしてがんの治療が行われ一命を取り留めたといったストーリーが、多くのメディアや本などでも紹介されています。しかし、彼らに自覚症状があったのであれば、がんの自覚症状の啓蒙活動をすればいいので、がん検診は不要になります。また、彼らに自覚症状がなかったのであれば、本当に早期に発見して意味があったかを科学的に結論するのは実は結構難しいのです。

 極論君が言います。

「がん検診をしたほうが、早期発見の率も上昇し、そして一番大切な寿命も延長するという論文は少なからず存在します。がん検診に不利益はほとんどないように思えるので、ぜひ全員ががん検診を受けるべきです」

 非常識君が反論します。

「本当に不利益はないのですか。胃のエックス線検査や乳房エックス線検査(マンモグラフィ)、胸部エックス線検査は放射線被曝します。胃カメラは希に合併症を生じます。また不十分な洗浄などの結果、胃カメラから感染するかもしれません。そして検査で陽性と出ても、実は精密検査の結果がんではなかった、つまり偽陽性という結論が出ることも少なくありません。

 偽陽性とは、つまり『がんではない』ということですから、検診を受けたがために、不要な精密検査が行われたということになります。そして、早期発見をして治療に移ります。つまりがんの治療ですから、外科治療、化学療法、放射線療法などになりますが、その結果、合併症などで苦労する、場合によっては死亡することもあります。

 もしも、そのがんが死ぬまで悪さをしないものであれば、治療はまったく無意味ということになりますので、不要な治療で不利益を被ったことになります。将来悪さを働くから治療をしましょうという理由で、その将来がいつかわからないけれども、いろいろなことが行われているのです」

乳がん検診は効果ない?

 これを受けて、極論君がいいます。

「大切なことは寿命です。検診をして早期発見をしても、その後の生命予後に差がないというような証拠でもあるのですか。それも誰もが認める一流の研究で、ですよ」

 非常識君が答えます。

「では、たとえばこの論文をご存じですか。イギリス医師会雑誌『BMJ』という極めて権威のある医学論文集です。タイトルは日本語訳すると『カナダ国立乳がん検診での乳がんの発症率と死亡率についての25年間の追跡調査』というもので、マンモグラフィ検診の受診有無で、40~59歳の女性の25年間の乳がん発症率と死亡率について比較を行ったものです。

 8万9835人の40-59歳の女性を対象に追跡調査を行い、定期的なマンモグラフィ検診は、身体診察による検診や普通に行われている乳がん治療による場合と比べて、乳がんの死亡率を減少させることはなかった。その上22%が過剰診断であったというものです。そして、驚くことにマンモグラフィ検診を受けるか受けないかは、本人の意思ではなくくじ引きで決められています。もっとも信頼できる研究ということです」

 常識君がまとめます。

「がん検診に意味がないという論文は、多くの方々には好意的に受け取られません。いろいろな理由で直感的にノーだからです。そんな論文は、がん検診は意味があるという論文に比べると、日の目を見ないのです。これを出版バイアスといいます。都合のいい論文が流布するということです。こんなことを知った上で、受診者はがん検診を受けるか受けないかを決めればいいのではないでしょうか。僕自身は、がん検診にはそれなりの意味があると思っています」

 常識君らしい優等生のコメントでした。
(文=新見正則/医学博士、医師)

新見正則/医師、新見正則医院院長

新見正則/医師、新見正則医院院長

外科専門医 /消化器病専門医 /消化器外科専門医 /消化器内視鏡専門医
慶應義塾大学医学部卒業後、外科医として研鑽を積む。大学病院や関連病院で診療にあたるほか、英・オックスフォード大学にて博士課程を修了。
新見正則医院 公式サイト

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