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富家孝「危ない医療」

大橋巨泉さんは、不適格な医師に「殺された」のか? 在宅医療の危険な問題点が露呈

文=富家孝/医師、ラ・クイリマ代表取締役
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大橋巨泉さんは、不適格な医師に「殺された」のか? 在宅医療の危険な問題点が露呈の画像1写真:Haruyoshi Yamaguchi/アフロ

「もし、一つ愚痴をお許しいただければ、最後の在宅介護の痛み止めの誤投与がなければと、許せない気持ちです」

 これは、去る7月12日に亡くなられた大橋巨泉さん(享年82歳)の夫人・寿々子さんが、メディアに公表したコメントだ。その後、巨泉さんのご家族や事務所関係者は、死に至る経緯を「週刊現代」(講談社/8月6日号)で、かなり克明に語った。
 
 この寿々子夫人のコメントと巨泉さんの死に至る経緯は、その後、大きな波紋を呼んだ。それは、日本の在宅緩和ケアが抱える問題を浮き彫りにしたからだ。筆者も近年、終末期医療の現場にかかわってきた実体験に基づき、今回はこの問題について考察してみたい。

治療の経緯

 巨泉さんが最初のがんの手術を受けたのは、2005年6月だった。この時のがんは胃がんで、巨泉さんは摘出手術を選択した。それは、「疑わしきはすべて切る」という考えを持っていたからだ(「週刊文春」<文藝春秋/8月4日号>より)。その理由は、巨泉さんが大学3年のとき母親を子宮がんで亡くしたが、これが誤診だったからだ。当初の医師の診断は「子宮筋腫」で、手術の必要はないというものだったが、亡くなってみるとすでにがんは遠隔転移していた。そのため、巨泉さんは自身ががんになったときは、ともかく手術するという考えになったのである。

 巨泉さんの2度目のがん摘出手術は13年11月で、この時は中咽頭がん。そして14年11月、肺と食道の間にある「縦隔」のリンパ節に腫瘍が見つかり、放射線治療を受けた。

 3度目の摘出手術は15年5月で、この時は肺がん。右肺の約3分の1を摘出した。さらに、同年10月、縦隔のリンパ節に腫瘍が2カ所発見され、腫瘍の除去手術を受けた。その後、放射線治療などを受けた後、今年4月5日に退院し、千葉県内の自宅で在宅医療を受けることになった。

もう少し長生きできた

 以上の経緯を見ると、退院後の在宅診療は、終末期の緩和ケアであり、これはがんによる痛みを少しでも緩和し、安らかに死を迎えるためのケアである。

 したがって、ご本人の希望をできるだけかなえる治療が求められる。しかし、それを担った近所の在宅診療所の院長であるA医師は、巨泉さんが「背中が痛い」と言うと、単純にモルヒネ系の鎮痛剤を処方しただけだった。しかも、その量を減らそうとはせず、巨泉さんはひとりで歩けなくなるほど体力が低下し、意識も薄れるようになった。それで、慌てたご家族は、ツテのある医師らに相談し、再びがんセンターに再入院したが、もう手遅れだった。前出「週刊現代」記事には、次のようなご家族のコメントが載っている。

富家孝/医師、ジャーナリスト

富家孝/医師、ジャーナリスト

医療の表と裏を知り尽くし、医者と患者の間をつなぐ通訳の役目の第一人者。わかりやすい言葉で本音を語る日本でも数少ないジャーナリスト。1972年 東京慈恵会医科大学卒業。専門分野は、医療社会学、生命科学、スポーツ医学。マルチな才能を持ち、多方面で活躍している。
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