最近、「長生きするための健康法」というテーマの本の企画や講演を持ちかけられることが増えた。そこで、いつも言うのだが、「これといったものなんてありませんよ。健康は人それぞれ。世にいう健康法というのは、みんなどこか間違っています」ということだ。
こう言うと、「それでは身も蓋もないではないですか」と言い返されるが、これは本当だ。特に最近は、これまで常識とされた健康法が、次々にひっくり返っている。
たとえば「コレステロールを取り過ぎるのは体に悪い」とされ、何十年にもわたって摂取制限がされてきたが、これは嘘だった。コレステロールを多く含む食べ物の代表として、卵、鶏レバー、バター、肉の脂身などが挙げられ、なかでも1個につき200ミリグラム超のコレステロールを含む卵は「1日1個まで」が常識になっていた。
しかし、コレステロールは悪玉とはいえ体には必要なものであり、血中のコレステロール値が高いほうが、肺炎やがんになりにくく、むしろコレステロール値が低い人のほうが死亡率が高いことが統計からわかってきた。
その結果、2015年に厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2015年版)」で、これまで18歳以上の男性で1日当たり750ミリグラム、女性で同600ミリグラム未満としていたコレステロールの基準を撤廃してしまった。その理由は「基準を設定するのに十分な科学的根拠が得られなかったため」だった。また、時を同じくして日本動脈硬化学会も「食事で体内のコレステロール値は大きく変わらない」とする声明を発表、健康な人では制限は必要ないとした。
かつて、コレステロール値を下げるために病院では薬を出していた。しかし、その全部は無駄で、結局コレステロール基準値というのは患者さんのためではなく、病院のために存在していたわけだ。
このような「健康常識の間違い」の例は、枚挙にいとまがない。血圧の基準値にしても、いまやそれには個人差があることが明白になり、血圧が160~170だろうと人によっては「正常=健康」といえることになった。
また、「減塩」がいわれて「塩分控えめが健康のもと」とされてきたが、これも怪しくなってきた。さらに本当に生野菜が体にいいのかも、最近では疑問視されている。
こうなると、食事による健康法はこれというものがないに等しくなった。よく「粗食が一番」と言われ、和食が健康のもとといわれるが、これも怪しい。日本の伝統的な粗食は「一汁一菜」で、肉や脂分の多いものは極力避けるが、そうなると栄養不足でかえって体を壊してしまうだろう。
やればやるほど不健康?
食事でさえこうなのだから、生活習慣や運動による健康法はもっと怪しい。たとえば、年を取ると必ず言われるのが、早起きしてジョギングやウォーキングをすることだが、無理に早起きをして、体が硬い起き抜けに運動するのは、実は体にもっともよくないのだ。
早寝・早起きは健康の基本だが、それは子供や若い人の話で、高齢者はむしろ遅寝・遅起きでもかまわない。睡眠は年を取るにつれて短くなり、質も落ちる。人間が一番深く長く眠れるのは20代で、70歳になれば6時間が限度だ。
というわけで、世の中に健康法は山とあり、健康法の本も山と出ているが、そのどれかひとつを徹底的に勧めている本は、すべて間違いと思っていい。
私は20年ほど前に、『人生、もっと「ぐうたら」に生きよう 』(大和出版)という健康本を出したことがある。ここでいう「ぐうたら」とは、無理をしない、ゆとりを持って生きようということだ。
年を取ると、特にそれを感じる。この本のなかでも書いたが、たとえば、猫はどうか? 犬はどうか? アフリカの草原にいるライオンはどうか? いつもゴロゴロしているのではないだろうか?
しかし、いざというときは信じられない集中力を発揮する。これこそが、本当の生き方だろう。健康法というのは、あるものを信じて、それを真面目にやればやるほど不健康になるものだ。
(文=富家孝/医師、ジャーナリスト)