今日は、「痛くても辛くても我慢してがんばるべきか」というお話です。
“極論君”は、「痛みや辛さは体の危険信号だから、そんなときは徹底的に休む。痛みや辛さを我慢してがんばるなどは論外である」という主張です。
一方で“非常識君”は「少々の痛みや辛さは我慢してがんばると、それに耐えられるようになる。だから休むなどは論外で、極力努力して動くようにしている」という主張です。
面白いですね。“常識君”のコメントです。
「たとえば、歩くと足が痛くなるときはどうするのですか?」
極論君の意見です。
「歩けば痛くなるのであれば、歩かないようにします。少なくとも痛みが生じるような歩行は絶対にしません。安静にして治れば、再び歩くようにします」
非常識君の質問です。
「坐骨神経痛などはなかなか治らないと思います。そんなときは一生歩かないのですか?」
極論君の回答です。
「腰部脊柱管狭窄症などで、ある程度の距離を歩くと痛くなる症状があります。間欠性跛行というのですが、こんなときは痛くなるまでは歩きません。その手前で休みます。前屈みになると楽なことが多いので、買い物用のシルバーカーを押してみたり、また歩けなくても自転車なら前屈みの姿勢になるので、いくらでも漕げるという人もいます。ともかく痛くなる前に休憩します」
常識君のコメントです。
「痛みは個人差があります。少々の痛みでも歩かないというと、まったく歩かない人も出てくると思います。痛みを我慢して症状が悪化するようなら、安静にするといった作戦はどうですか」
極論君の回答です。
「それでもいいと思います。急性期はともかく痛みがあれば休むべきでしょうが、慢性期、つまり症状の経過が長いときは、まったく歩かないことは確かに体にも悪影響だと思います。慢性期であれば痛くない、また少々は我慢できる範囲で歩くことに異論はありません」
痛くても適度に歩くべき?
非常識君の意見です。
「僕も歩いて痛みが増加するのなら、我慢して歩けとは言いません。休むべきです。しかし、適度に歩くと筋肉が鍛えられて、膝痛や腰痛が楽になることはしばしば経験します。また、腰部脊柱管狭窄症と同じく間欠性跛行の原因となる閉塞性動脈硬化症では、絶対に痛くても歩いたほうがいいと思っています」
極論君が質問します。
「痛みを堪えても歩いたほうがいいのですか?」
非常識君の回答です。
「そうです。閉塞性動脈硬化症では徐々に下肢の太い血管が閉塞します。急性の動脈閉塞では足が腐ったり、じっとしていても痛みが生じます。切迫壊死とか安静時痛といいます。ところが、閉塞性動脈硬化症では徐々に動脈が閉塞していくので、細い血管が閉塞部位の周りにできるのです。高速道路が閉塞してもインターチェンジから降りて、一般道路を走って、またその先のインターチェンジから乗れば大した問題が生じないのと同じイメージです。
ところが、突然に高速道路が寸断されると、一般道路を整備している余裕がないので不自由が生じるのです。ところが慢性閉塞ではボツボツと閉塞が進むので、一般道路を整備する時間的余裕があります。ですから、切迫壊死とか安静時痛といった症状は出ません。しかし、高速道路ではないのでたくさん輸送能力はありません。安静時には問題ないが、動くと症状が出るのです。それを血管性の間欠性跛行といいます」
禁煙は絶対に励行すべき
極論君の質問です。
「そこまではわかりました。なぜ閉塞性動脈硬化症では、痛くても運動したほうがいいのですか?」
非常識君の回答です。
「閉塞性動脈硬化症で足に痛みが生じるということは、血流不足を体が訴えているのです。ですから、体は閉塞している太い動脈の周囲の細い血管を、少々太くしたり、流れを改善したり、またその数を増やしたりして対応するのです。血流が必要な状態をつくらないと細い血管は発達しません。ですから閉塞性動脈硬化症では、歩くことが何より大切な治療法なのです。痛くなっても少々歩くことが大切です」
常識君の追加意見です。
「閉塞性動脈硬化症は喫煙で悪化します。タバコは太い血管にも細い血管にも悪影響なのです。禁煙は絶対に励行すべきです」
非常識君の追加意見と質問です。
「足の動脈が閉塞する閉塞性動脈硬化症では、間欠性跛行が生じます。安静時は痛くないが歩くと痛くなるのです。では希な病態ですが、胃や腸に栄養を送る動脈が慢性的に閉塞したときの症状はわかりますか?」
常識君の回答です。
「足は歩けば痛くなるのですから、消化管では食べれば痛くなるのでは?」
非常識君の回答です。
「そうです。食べれば腹痛が生じて、食べなければまったく痛みを生じないのです。食後にいつも腹痛があって、胃カメラや大腸カメラで異常がない人はこんな希な病気かもしれません。では骨盤に栄養を送る血管の慢性閉塞の症状はわかりますか?」
極論君の回答です。
「便秘とか、排尿障害とか、生理痛とかですか?」
非常識君のコメントです。
「それらの症状も起こるかもしれませんが、わかりにくいですね。わかりやすいのは、つまり閉塞した血管を手術やカテーテル治療で治すと元に戻る症状です。血管性のインポテンツです。安静時には腐りもしないし、また痛みもないが、血流が必要なとき、肝心なときに勃起させる十分な血流が得られません。そんな症状も慢性の血管閉塞では起こることがあります」
今回は血管病変に造詣の深い非常識君の独断場でした。
(文=新見正則/医学博士、医師)