12月1日は「世界エイズデー」である。芸能人や文化人なども多く参加し、ライブやイベントが各地で行われる。エイズデーの目的は、エイズに関する啓発活動である。
国立感染症研究所の報告によれば、2016年の日本における新規HIV感染者数は1011人、新規エイズ患者数は437人だった。新規HIV 感染者1011人の推定感染地域は、全体の 83%が日本国内だという。そのうちの50%以上が関東・甲信越からの報告で、東京、大阪、愛知といった大都市圏に集中している。HIV感染は他人事だと思う人もいるかもしれないが、国内での感染がある以上、HIVについての正しい理解が必要である。
感染確率は低いが油断は禁物
HIVの感染経路としては、「性感染」がもっとも多い。しかしながら、1回の性交渉における感染確率は0.1~1%程度とされている。単純に、HIV感染者と100~1000回性交渉をして感染する確率だ。ただし、粘膜に傷などがあれば、この確率は何倍にも高まる。
HIVウイルスは、空気中や水中では感染力を失う。しかし、体液の中では高濃度に存在し、性交渉の際に皮膚や粘膜の傷などから体内に入り込み増殖していく。この場合の体液とは、血液、精液、膣分泌液を意味する。汗、涙、唾液からの感染はないと考えられるが、オーラルセックス(口淫)は危険だ。それは口の中に傷、さらに出血などがあれば、血液中にHIVウイルスが含まれるので感染する可能性があるためだ。
性感染のほかの感染経路には、血液感染、母子感染がある。血液感染は、輸血や薬物使用の際に針を使い回すことで起きる可能性がある。輸血における感染確率は90%で、国は1980年代に起きた「薬害エイズ事件」を教訓として輸血用血液に対する安全対策に努めているが、2013年にも輸血によるHIV感染が報告され、さらに対策が強化されている。母子感染については、妊婦検診の際のHIV検査が充実しており、母親がHIVウイルス保持者であることがわかれば適切な医療処置により母子感染予防を施す。
HIV感染予防
個人ができる一番の感染予防は、性感染経路を断つことだ。HIV感染以外の性感染症でもいえることだが、複数の相手と性交渉を持つことは、感染の危険性が鼠算的に増えるという認識を持つことが大切だ。目の前の相手を信用できても、その相手がほかに性交渉を持った“見知らぬ誰か”についてまでは信用できないだろう。そう考えれば、性交渉時の感染予防策は必須といえる。
(1)コンドーム:性行為の最初から最後まで装着することで有効性が高まる
(2)モラルある性交渉:不特定多数との性交渉を持たない
(3)定期的検査:HIV検査だけでなく、各種の感染症検査をするのが望ましい。性感染症で粘膜に炎症があればHIVへの感染確率が高まるからだ。
HIV、エイズ治療の今
研究が進み、現在ではHIVウイルス保持者やエイズ発症者も、薬の服用など適切な治療を継続することにより通常の生活を送ることが可能となった。現在は、3~4種類の抗HIV内服薬を組み合わせ同時に内服するHAARTが主流となっている。HAARTとは、Highly Active Anti-Retroviral Therapyの略で、強力な抗ウイルス療法を意味する。また近年、HIV感染が危惧される性交渉があった場合に、72時間以内に抗HIV薬の内服を開始することで感染の可能性を低下させるPEPという予防治療も開発されている。だが、現状ではPEPの予防効果は100%ではない。
HIVに感染したことを知らずに放置すれば、いつかエイズを発症する。感染後、数年~数十年間は、ほとんど無症状であるため、感染を知る術は検査を受けるほかにない。早期治療によりエイズ発症は抑えられ、日常生活を送ることができる。HIVやエイズは他人事ではなく、すぐ隣にあるものだと認識していただきたい。検査は各都道府県の保健所などで匿名・無料で受けることができるので、ぜひ利用してほしい。
12月1日の世界エイズデーでは、各会場でHIV検査イベントも開催される。HIVやエイズに関する理解を深めるためにも、会場に足を運んでみてはいかがだろうか。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)