「セックスという言葉を使ったらダメ」「中学生に避妊を教えたらダメ」など、諸外国に比べて性教育の中身がお粗末といわれる日本。その弊害が、今いたるところに表れているという。
日本の性教育の問題点は何か。また、海外の“性教育先進国”との間には、どのような違いがあるのか。ヨーロッパなどの性教育を研究している女子栄養大学名誉教授の橋本紀子氏に話を聞いた。
「生理用品=非処女確定」でアイドルが炎上
今年5月、日本の性教育の遅れを示すような“事件”が起きた。
アイドルグループ・STU48の石田みなみが動画配信サイト「ショールーム」のライブ配信中に誤って背後の生理用品を映してしまったところ、ファンから「非処女確定」などのコメントが殺到。炎上騒ぎになってしまったのである。
このファンの反応でわかるのは、「処女には生理がない」という誤解があることだ。しかし、このような性に対する知識不足は「教育現場でもよく見られる」(橋本氏)という。
「養護教諭として高校に赴任した教え子に聞いた話なのですが、性に関する知識以前に、そもそも体の構造を理解していない子がいることもあるそうです。経血がどこから出ているのかを知らない女子生徒がいたり、セックスによって妊娠することを知らず、『太った気がする』と保健室を訪れて妊娠が発覚したり……。そんな話を耳にしたこともあります」(同)
子どもの学力や知識は地域性や家庭環境の問題とも関連しており、それらによって「情報格差」が生まれる。とはいえ、「処女には生理がない」「セックスによって妊娠することを知らない」というのは、情報格差以前の問題だ。
橋本氏は、「せめて性教育関連の教科書がしっかりしてくれていれば」と語る。
「日本の保健体育や理科の教科書は、性に関する内容がとても薄いんです。小学校の理科の教科書には『性交』という言葉がなく、『人の発生や成長』を学ぶ単元があっても、性交についてはまったく書かれていません」(同)
その理由は、文部科学省が「受精に至る過程については取り扱わない」という規定を設けているからだ。そのため、子どもたちは胎児の成長については学ぶことができても、どんな行為で妊娠するのかを知ることができない。
これは、小学校だけでなく中学校でも同様だ。セックスについて正面から向き合おうとせず、中学校の保健の学習指導要領は避妊を取り上げず、コンドームの装着法についても避け続けている。LGBTについても同様で、そのような子どもたちへの配慮はしても、教科書は異性愛主義によって書かれ、その下で性教育が行われているのが実情だ。
つまり、子どもたちが本当に知りたいこと、本当に必要としていることを学ぶことができないのが日本の性教育の現状といえる。
韓国では小学校の授業で「性暴力」も扱う
諸外国では、どのような性教育が行われているのか。橋本氏によると、フランスでは科学の生物領域でひとつの単元を使って「人間の性」を学ばせているという。